- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！ ～富士編～
耳のすぐ下から鈴虫の鳴き声が聞こえている。
虫の声に誘われ、ふわり、眠りの底から意識が浮き上がった。起きたいのか起きたくないのか自分でも分からぬまま、眉間に皺が寄る。胸から息が吹きあがる。
知らず持ち上がる瞼が気にくわずに幾度か瞬きを繰り返す。ぼんやりかすむ眼鏡のない視界を冷えた指先で擦りこすり、横向きに転がっていた身体をもそもそと起こす。
二つ折りにして枕代わりにしていた座布団がぱたりと広がった。
自分の頭の体温が残る座布団を何気なくぱたぱたと叩いて、
「……ふっふ」
薄野 五月は寝ぼけ眼でちょっと笑った。
座布団の脇に転がっていた眼鏡をほとんど手探りで手に取り掛ける。
ムラサキシキブと萩の紫が秋風にさらさらと揺れる庭を眺めながら、傾き始めの太陽を仰いで伸びをすれば、お昼寝の眠気はすぐに飛んだ。
「……おや？」
初秋の縁側でお昼寝ときめこむ前には熱い蕎麦茶と蕎麦饅頭でおやつと洒落込んでいたのに、お盆に乗せて置きっぱなしだったはずの湯飲みと小皿が消えている。そう言えば、お腹には持ってきていなかったはずの肌布団が掛けられていた。
文句を言いながら世話を焼いてくれたのだろう家族の顔が浮かんで、五月はもう一度ふっふと笑う。
肌布団を畳んで座布団に重ねたところで、
「ん？」
秋の庭にふわりと舞い降りた雪のひとひらのような、真っ白い猫を見つけた。思わず瞳が和む。
「やあ、こんにちは」
おっとりと会釈すると、揺れる萩の花の傍、白猫は前肢を揃えて端座した。古侍にもどこか似た佇まいに、五月はぱちぱちと瞬く。ちらりと笑って、抱えかけていた座布団と肌布団を脇に置く。縁側に正座し、黒髪を揺らして再度、三つ指ついてご挨拶。
「ようこそ、我が家へ。蕎麦でも召し上がって行きませんか、白猫さん」
仰々しく口にする傍から笑みが込み上げてきて、顔を上げるより先にくすくすと笑って、
「……あれ？」
上げた視線の先に、白猫は居なかった。
きょとんと首を傾げた視界の端、揃えた膝の横に気配もなくゆらりと立った猫の姿に、五月は声もなく目を瞠る。
驚いた様子の五月に、白猫はどこか満足気に笑った。縁側から飛び降りる。そうして、五月を振り返る。
――おいで
にゃあ、と渋い声で鳴く老いた猫にそう言われた気がして、五月は思わず縁側から降りた。沓脱石に置かれたサンダルを引っ掛け、白猫を追って庭から外の路地へ出る。
終わりがけの項垂れた向日葵の下を潜り、柔らかに咲く撫子の鉢植えを横目に、他所の家の庭先から顔を出す桔梗の濃紫とすだく虫の音に近づく秋を思う。
暮れてゆく空の下の参道商店街の裏路地は、どれだけ慣れていてもどこかしら見知らぬ場所に迷い込んでしまうような気持ちにふと包まれる。
心のほんの隙間に宿る寂しさにも似たものは、道の辻に祀られるお地蔵さんの前で足を止め、手を合わせることで落ち着かせる。
(だいじょうぶ)
ここは、私の町だ。
にゃあ、と白猫が呼んでいる。お地蔵さんにぺこりとひとつ頭を下げて、五月はまた歩き出した。
真っ白な猫を追いかけ、暮れゆく参道商店街を行く。
どこかの家から漂ってくる焼き魚や出汁の匂い、脇を駆けて行く子どもの笑い声、居酒屋の戸から漏れ出す光。明滅しながら灯る街灯の光と、それに伴い深さを増す夕闇。
石畳の路に落ちる街灯の輪にゆらりと浮かび上がる白猫の背を確かめつつ歩いたその先に見えたのは、いつも通学路に使う橋。堤防に沿い、九夜山の方向へしばらく歩いて後、白猫はついと尻尾を翻した。葛の花が繁る土手を降りれば、秋風にさらさらと音立てて広がるは白銀の薄野。
初秋に在って未だ青い薄の葉を分け、白猫がひょこりと顔を出す。待っていたよとばかりに黄昏と同じ金色の瞳で見上げられ、五月はつい丁寧にお辞儀を返した。
「お待たせしました」
薄野のまにまに見える白猫の尻尾を追いかけつつ、ふと笑みを零す。普通の毎日にあって、白猫の尻尾を追いかけたところできっと何処に至れるわけでもなかろう。視界を半ば遮ってさらさらと揺れる薄の穂の向こうにあるのは、いつも通り穏やかに流れて海まで続く猫又川だけだ。
――それでも。
ゆらり、薄の隙間に真っ白な尻尾が誘うように揺れる。にゃあ、と何処かに呼び込むかの如く猫が鳴く。
黄昏の緋を伴う金に染まる薄野の向こうには、もしかすると見たことのないナニカが待っているかもしれない。
それはいったい何だろう。
たとえば突如として広がる見知らぬ蒼く古い森か。
たとえば不意に手を引く猫のような瞳した誰かか。
「ふっふー」
胸を満たす好奇心と予感に堪らず笑みを零し、五月は躊躇わぬ一歩をさらりさらりと揺れる薄野へと更に踏み入れる。
「はーい、今行きますー」
虫の声に誘われ、ふわり、眠りの底から意識が浮き上がった。起きたいのか起きたくないのか自分でも分からぬまま、眉間に皺が寄る。胸から息が吹きあがる。
知らず持ち上がる瞼が気にくわずに幾度か瞬きを繰り返す。ぼんやりかすむ眼鏡のない視界を冷えた指先で擦りこすり、横向きに転がっていた身体をもそもそと起こす。
二つ折りにして枕代わりにしていた座布団がぱたりと広がった。
自分の頭の体温が残る座布団を何気なくぱたぱたと叩いて、
「……ふっふ」
薄野 五月は寝ぼけ眼でちょっと笑った。
座布団の脇に転がっていた眼鏡をほとんど手探りで手に取り掛ける。
ムラサキシキブと萩の紫が秋風にさらさらと揺れる庭を眺めながら、傾き始めの太陽を仰いで伸びをすれば、お昼寝の眠気はすぐに飛んだ。
「……おや？」
初秋の縁側でお昼寝ときめこむ前には熱い蕎麦茶と蕎麦饅頭でおやつと洒落込んでいたのに、お盆に乗せて置きっぱなしだったはずの湯飲みと小皿が消えている。そう言えば、お腹には持ってきていなかったはずの肌布団が掛けられていた。
文句を言いながら世話を焼いてくれたのだろう家族の顔が浮かんで、五月はもう一度ふっふと笑う。
肌布団を畳んで座布団に重ねたところで、
「ん？」
秋の庭にふわりと舞い降りた雪のひとひらのような、真っ白い猫を見つけた。思わず瞳が和む。
「やあ、こんにちは」
おっとりと会釈すると、揺れる萩の花の傍、白猫は前肢を揃えて端座した。古侍にもどこか似た佇まいに、五月はぱちぱちと瞬く。ちらりと笑って、抱えかけていた座布団と肌布団を脇に置く。縁側に正座し、黒髪を揺らして再度、三つ指ついてご挨拶。
「ようこそ、我が家へ。蕎麦でも召し上がって行きませんか、白猫さん」
仰々しく口にする傍から笑みが込み上げてきて、顔を上げるより先にくすくすと笑って、
「……あれ？」
上げた視線の先に、白猫は居なかった。
きょとんと首を傾げた視界の端、揃えた膝の横に気配もなくゆらりと立った猫の姿に、五月は声もなく目を瞠る。
驚いた様子の五月に、白猫はどこか満足気に笑った。縁側から飛び降りる。そうして、五月を振り返る。
――おいで
にゃあ、と渋い声で鳴く老いた猫にそう言われた気がして、五月は思わず縁側から降りた。沓脱石に置かれたサンダルを引っ掛け、白猫を追って庭から外の路地へ出る。
終わりがけの項垂れた向日葵の下を潜り、柔らかに咲く撫子の鉢植えを横目に、他所の家の庭先から顔を出す桔梗の濃紫とすだく虫の音に近づく秋を思う。
暮れてゆく空の下の参道商店街の裏路地は、どれだけ慣れていてもどこかしら見知らぬ場所に迷い込んでしまうような気持ちにふと包まれる。
心のほんの隙間に宿る寂しさにも似たものは、道の辻に祀られるお地蔵さんの前で足を止め、手を合わせることで落ち着かせる。
(だいじょうぶ)
ここは、私の町だ。
にゃあ、と白猫が呼んでいる。お地蔵さんにぺこりとひとつ頭を下げて、五月はまた歩き出した。
真っ白な猫を追いかけ、暮れゆく参道商店街を行く。
どこかの家から漂ってくる焼き魚や出汁の匂い、脇を駆けて行く子どもの笑い声、居酒屋の戸から漏れ出す光。明滅しながら灯る街灯の光と、それに伴い深さを増す夕闇。
石畳の路に落ちる街灯の輪にゆらりと浮かび上がる白猫の背を確かめつつ歩いたその先に見えたのは、いつも通学路に使う橋。堤防に沿い、九夜山の方向へしばらく歩いて後、白猫はついと尻尾を翻した。葛の花が繁る土手を降りれば、秋風にさらさらと音立てて広がるは白銀の薄野。
初秋に在って未だ青い薄の葉を分け、白猫がひょこりと顔を出す。待っていたよとばかりに黄昏と同じ金色の瞳で見上げられ、五月はつい丁寧にお辞儀を返した。
「お待たせしました」
薄野のまにまに見える白猫の尻尾を追いかけつつ、ふと笑みを零す。普通の毎日にあって、白猫の尻尾を追いかけたところできっと何処に至れるわけでもなかろう。視界を半ば遮ってさらさらと揺れる薄の穂の向こうにあるのは、いつも通り穏やかに流れて海まで続く猫又川だけだ。
――それでも。
ゆらり、薄の隙間に真っ白な尻尾が誘うように揺れる。にゃあ、と何処かに呼び込むかの如く猫が鳴く。
黄昏の緋を伴う金に染まる薄野の向こうには、もしかすると見たことのないナニカが待っているかもしれない。
それはいったい何だろう。
たとえば突如として広がる見知らぬ蒼く古い森か。
たとえば不意に手を引く猫のような瞳した誰かか。
「ふっふー」
胸を満たす好奇心と予感に堪らず笑みを零し、五月は躊躇わぬ一歩をさらりさらりと揺れる薄野へと更に踏み入れる。
「はーい、今行きますー」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2019年01月01日
- 参加申し込みの期限
-
- 2019年01月08日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2019年01月08日 11時00分
