７月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

７月の☆ハッピーバースデー

●７月９日　～熊吉のＢｉｒｔｈｄａｙ～

　寝子島の夏は、暑い。
　潮風がじっとり肌にへばりつき、雲一つない空からは太陽がギラギラと照りつける。
　特にこの日の暑さたるや、とりわけ凄まじかった。
　コンクリートに卵を落とせば目玉焼きが出来そうなほどだった。

「あっついなー！」
　だが、そんな真夏日の暑さにもかかわらず、曖浜瑠樹はニコニコとご機嫌だった。
　それもそのはず、明後日は彼の誕生日なのだ。

　母が腕によりをかけて作ってくれるごちそうに、父が贈ってくれるプレゼント。
　そして何より、大人への階段を１段昇ったという実感。
　小学四年生の彼にとって、誕生日はそれだけ特別な日なのだ。

　そんな瑠樹が『サンマさん色んな数字キーホルダー』のガチャを見つけたのは、ちょうど散歩を終えて家に帰ろうとしていた時である。
　サンマさんの体文字で描かれたコミカルな数字キーホルダー。ゆるキャラが大好きな瑠樹の目はあっというまに釘付けになり、気づけば掌に１００円玉を握りしめていた。
　狙う数字は１１。自分の誕生日の数字だ。きっと神様も大サービスで自分の願いを叶えてくれるに違いない、そんな思いを胸に１００円玉をスロットへ投入する。
「出ろ１１！　１１、出ろ！」
　ガチャから出た数字は、果たして――。
「９かぁ」
　ハズレであった。
　神様はちょっぴり采配を間違えたらしい。
「んー、でも、こうして手に入ったのも何かの縁だろうしなぁ……そうだ！」
　瑠樹は、散歩のルートを寝子高へと切り替えた。
　今日が誕生日の人に送れば、きっと喜んでくれそうだ。そんな気がした。

　―

　カンカン照りの暑さにもかかわらず、吉田熊吉は校庭でランニングをこなしていた。
　赤い上下のジャージに身を包み、大岩のような体でドスドスと字面を揺らしながら。
「こんにちはぁ、くませんせー！」
「んんん！？　……おお～、どうした？」
　くわっ、と振り返ったいかめしい熊吉の顔が、みるみる柔らかく緩んだ。
　瑠樹の『ゆるゆる和みと恩恵の輪』は、どんな者でも和ませるのだ。
「くませんせー、誕生日おめでとう！　このキーホルダー、あげるなぁ」
「おお、こんな可愛いものを！　嬉しいじゃねえか、ありがとよぉ！！」
　そう言って瑠樹が差し出したサンマさんキーホルダーを、熊吉はたいそう喜びながら受け取った。
「お仕事頑張ってねぇ。それじゃ、またなぁー！」
　サンマさんがくませんせーを、悪いことから守ってくれるように。
　瑠樹はそんなことを祈りながら、熊吉に手を振って、その日の散歩を続けた。

●７月１１日　～瑠樹のＢｉｒｔｈｄａｙ～

　そして、熊吉の誕生日から２日後。
「ただいまー！」
　帰宅した瑠樹を出迎えたのは、父と母と飼い猫のまちか、そして誕生日のごちそうだ。
　苺のショートケーキやハンバーグ。どれも瑠樹の好物である。
　うがいと手洗いを終えて、誕生日パーティーの始まりだ。

　蝋燭を吹き消し、ケーキをぱくりと頬張れば、至福の心地に包まれる。
「ん～！　美味しいなぁ。オレ幸せ！」
　両親から貰ったプレゼントは、後で開けてみよう。
　まちかも今日は特別なおやつで、とても上機嫌だ。
（来年の誕生日も皆、楽しく迎えられますようにー！）
　膝の上で寝息を立てるまちかを優しく撫でて、瑠樹は最高の誕生日を心行くまで楽しむのだった。