７月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

７月の☆ハッピーバースデー

●７月３０日　～紗月のＢｉｒｔｈｄａｙ～

　仕事をしている人間にとって、フリーな時間を設けるのは大変なことだ。
　前もってスケジュールを調整し、仕事先に話を通し、不足の事態に備えたプランを幾つも用意せねばならない。平日を丸一日となれば尚更だ。

　のんびりするとか、気晴らしに行くとか、そうした理由で休みを取ったりはしない。
　その人にとって仕事よりも大事で、絶対に外せない、そんな時間でなければならない。

　初瀬川理緒にとって、今日はそういう１日だった。
　グラビアアイドルの仕事よりも、受験勉強よりも大事な用事。
　恋人の佐和崎紗月の誕生日。
　それは彼女にとって何より大事で、優先することだった。

　７月３１日、朝。
　理緒はシーサイドタウンの道を行きながら、理緒と過ごすふたりきりの時間をあれこれと思い描いていた。
　バッグにプレゼントを忍ばせ、理緒は紗月のことに思いを巡らせる。

　寝子高校芸術科に通う３年生で、好きな曲はドビュッシーとラヴェル。
　ほんの少し臆病で人見知りが激しいが、心根は誰よりも優しい少女。
　そんな紗月が、理緒はとても愛おしい。
　紗月の誕生日はグラビアアイドルの仕事も、受験勉強もお休みだ。

　――いよいよ紗月も、今日であたしと同い年か。

　紗月の家はシーサイドタウンの一角にある。
　今日行くことは伝えてあるから、盛大に祝って、思いきり甘えてやろうと理緒は思った。
　荷物に忍ばせたプレゼントへ、そっと視線を落としながら。

　――コレ、ぜったい紗月に似合うはず。喜んでくれるといいけど。

　そうして家に着いた理緒が玄関のベルを鳴らすと、
「いらっしゃい、理緒ちゃん」
　開いたドアの向こうから、紗月が笑顔と整った身だしなみで出迎えてくれた。
「誕生日おめでとう、紗月」
「ありがとう理緒ちゃん。入って」
　紗月は喜びに満ちた笑顔で、大事な恋人を迎え入れた。

　―

　家にいるのは、紗月ひとりだった。両親は経営の喫茶店で仕事中なのだろう。
　部屋は程よく空調が効き、クラシックと思しきピアノの旋律が流れていた。
（あたしの寮部屋とは大違いだね）
　手入れされた部屋を見回して、つい理緒はそんなことを考える。

「そうだ紗月。これ、プレゼント」
　そう言って理緒が差し出した包みを、紗月は丁寧に開けた。
　中から出てきたのは、服とピアス。
「綺麗……ありがとう、理緒ちゃん」
　紗月の視線は、ピアスへと注がれた。
　小粒のカイヤナイトを用いたノンホールピアスだ。

「つけ合いっこしない？」
「する！」
　理緒の手の中には、お揃いのピアスがもうひとつ。
　それに紗月は笑顔で頷いた。
　お互いに見つめ合い、絆を確かめ合うようにピアスをそっとつけ合うふたり。
　耳に光る藍色の輝きに、紗月と理緒は満足そうに微笑むのだった。

「食べて大丈夫？」
　紗月の口からそんな言葉が出たのは、二人でケーキを作っていたときのこと。
　体型管理は仕事の一部――そんな気遣いの言葉に理緒は一瞬ビクッとしたが、
「大丈夫大丈夫！」
　そう言って笑うと、宝石のようにカラフルなゼリーを取り付けて、フルーツケーキを完成させるのだった。
「美味しそう！」
「じゃ、さっそく食べようか」
　理緒はナイフに手を伸ばし、ケーキを切り分けていく。
「ちょっとまって！　切るのはもう少し真ん中にしよ、バランスが悪くなっちゃう」
「え～？　もう、しょうがないな」
　理緒はしぶしぶと言った顔で、紗月の言葉に従うようにナイフを入れた。
　紗月の繊細さに苦笑いしながら、理緒はケーキを切り分ける。
「それじゃ――」
「いただきます！」
　涼しげなケーキが出来上がり、それを二人で食べる。
　こんな瞬間が、何よりも愛おしい。

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あとがき

担当マスター：坂本ピエロギ
ファンレターはマスターページから！

坂本ピエロギです。
７月の誕生日はどのように過ごされましたでしょうか。
ひとつ重ねた歳で過ごす寝子島での生活が良いものであるよう、心からお祈りしております。
シナリオへのご参加、ありがとうございました。

（運営部より）
７月生まれのキャラクターの年齢加算は近日中に行われる予定です。しばらくお待ちくださいませ。

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