７月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

７月の☆ハッピーバースデー

●７月１９日　～甘桃のＢｉｒｔｈｄａｙ～

「そろそろ部屋から出てきなさい、ケーキが待ってるわよ」
　階下から聞こえる母親の声を、百岳甘桃は無視した。
「……いらないもん。ケーキなんて」
　いったいどんな顔をしてケーキを食べればいいのか、甘桃には分からない。
　本当なら、家族みんなで食べるはずだったのに。
　寂しさを紛らわすように、甘桃はテディベアのくまももをぎゅっと抱きしめた。いつだってくまももは、甘桃の悲しみを黙って受け止めてくれる。
「パパのばか……」
　小さな口から漏れた言葉が、薄暗い天井に吸い込まれて消える。

　出張の予定が伸びたから。
　家族で迎えるはずだった誕生日は、父親の一言で叶わなくなった。
　父が仕事をしているのは、たしか向こうの方角だったと記憶している。
　甘桃は頬を膨らませ、部屋の窓辺に歩いて行った。

　甘桃が空を眺めていると、窓の外に何かいるのに気づいた。
（……白い、翼？）
　鳥かとも思ったが、人間である甘桃を見ても逃げずに、じっと窓の外を飛んでいる。
　窓を開けて手を伸ばせば、届きそうな距離を。
　恐る恐る甘桃が窓を開けると、その翼はふわりと潮風に乗って部屋の中へ入ってきた。

　それは、白い馬だった。
　角と羽を生やし、ピンクのたてがみを持ったその馬は、まるで最初から甘桃の部屋を知っていたように、彼女の机の上で静かに止まる。

「これ……もしかしてカプギア？」
　かつて触った事があったので、甘桃はそれがカプセルギアであることはすぐに分かった。
　だが彼女の知るカプセルギアはもっとゴツゴツした、男子たちの好きそうなロボットものだ。こんなデザインのギアは見たことがなかった。
「こんなにキレイでかわいいのもいるんだ。たてがみ、きれい……」

　よく見るとカプセルギアは、口に一枚のカードをくわえていた。
　上質な紙に書かれた「甘桃へ」の筆跡は、彼女がよく知る人物のもの。
「これ、パパが書いたバースデーカード！」

　甘桃へ

　お誕生日おめでとう。
　甘桃がきっと好きなかわいいカプギアを見つけたよ。
　名前はアマデトワール。星空という意味があるんだ。

　毎日会いたいけど、いつも一緒にいてあげられないパパでごめんね。

　抱きしめたアマデトワールからは、父親の匂いがした。
「パパもほんとは今日帰りたかったんだね。悲しいのはわたしもパパもいっしょなんだ」
　甘桃はふと、このアマデトワールの操縦者が気になった。
（アマデトにカード持たせてパパが動かして来たのかな、でも飛ばすのも遠いよね）
　父の出張先は遠い場所だ。
　カプセルギアの詳しい知識がない甘桃も、それが難しいことであることは何となく想像がついた。
（まさかアマデトが勝手に動いて？　そんなことあるのかな？）

「よーし！　アマデト、くまもも、１階に行こう」
　アマデトにくまももを紹介し、甘桃は歩き出す。
「ママがケーキ切ってくれてるの。パパにもアマデトが来たって電話しないとね！」
　今日は、最高の誕生日になりそうだ。