●オリエンテーション

　愛光堂の大きな会議室で、社長のアイコーさんこと愛光秀光さんのお話が始まってから５分が経ちました。
「――つまり、私は皆さんのような小・中学生から、おじいちゃんおばあちゃんまで皆が一緒にアソべるおもちゃを作りたくてこの愛光堂を設立したのです」
　アイコーさんは少年の様なキラキラした瞳で、愛光堂を立ち上げた理由をそうまとめます。
　陸堂 源次くんは、そんなアイコーさんが自分が抱いていたシャチョーさんと感じが違うことに驚いていました。
「シャチョーさんってもっとおじいちゃんなイメージがあったんだけど……凄いハキハキしてるなぁ」
　感心しつつ、源次君は「ちょっと話は長いけど……」と早くも次の段階に行きたくてそわそわ。
「カプギアってさ、いわゆるシャカイゲンショーだと思うんだけど、「それを起こしてやったぜ！」みたいな感じが全然ないよねー」
　と応じる鈴島 クミさんも、すでにそわそわと身体が小刻みに揺れています。
　そんな二人の隣では、煌 白燕さんもまた少し心をそわそわさせつつ、真剣にアイコーさんの話に耳を傾けていました。特にアイコーさんが「カプセルギアは私達の友達なんです」と言ったときには、
（あぁ、ああいう人だからこそ、カプギアのような素敵なものを生み出せたのかもしれんな）
　と、少しジーンときてしまったほど。
　小学生のギアマスター達だけでなく、多感な中学生ギアマスター達の心にも社長の言葉は届いているようです。
「ちょっと暑苦しいけど、ゲーマーとして社長さんの気持ちは少しわかるかな。いくらシステムが面白くても、感情移入できなくちゃゲームってつまんないんだよね」
　と、仙藤 蒼さんはゲーマーならでは視点で共感を示しました。
　曖浜 瑠樹くんはつい先日に迷い込んだある場所での出来事を、アイコーさんの話を聞いて思い出していました。
「カプギアさん達は友達、わかるなぁ。そういえば、アイコーさんはカプセルプラネットに行ったことあるのかなぁ……」
　もし、アイコーさんがカプセルプラネットに行ったことがきっかけでカプギアが生まれたのなら……そんなことを考えると瑠樹くんのワクワクはますます高まっていきます。
　概ね好意的に受け取られていた社長の長話。
　ですが、人の多い場所が苦手な海堂 洋子ちゃんは早くも苛々していました。
「MAKIYUKI、自慢のギアであの男の長話をなんとかしたまえよ……。こんな人口密度の多い場所はもう限界だ……」
「……無茶言わないでよ。でも、良かったね。その帽子を貸してもらえてサ」
　小さく肩をすくめつつ、牧 雪人くんが視線を移したのは洋子ちゃんが目深に被った男の子向けの帽子。
　それはオリエンテーションが始まる前に鳳城 翔くんが貸してくれた帽子でした。
「……全くだ。気の利かないMAKIYUKIとは大違いだ……」
「うわ、ひどい言われようだね。ま、それだけ憎まれ口が叩ければ大丈夫でしょ」
　などと言っているうちに、広報の青山さんがピコピコハンマーを持って登場。
「社長！　長話はいい加減にしてください！」
　ピコン、と軽快な音で頭を叩かれるとアイコーさんの話はそこで中断。とても社長とは思えない扱いです。
「はい。社長、長々とありがとうございましたー。それじゃあここでちょっとだけ質問コーナー。うちの社長に何か質問をしたい人は――」

「はい！」

　と、そこで勢いよく挙手をしたのは大江戸 マンモスさん。
「カプギアは100円と安価な玩具ですが、どうやって製造してやがるのですか？　ちゃんとペイできてるんですか？　原理とかどうなってるんですか？　あと、社長はヅラですか？」
　立て板に水を流すようにアグレッシブに質問するマンモスさん。
　それに対し、社長は動じずに穏やかな微笑みを浮かべ、
「カプセルギアの原価はそれほど高くありません。原理については優秀なスタッフに丸投げしているのでわかりません。あと、私がヅラかどうかは――企業秘密です」
「企業秘密の優先順位おかしくねーですか！？」
　思わずマンモスさんが突っ込むと、会場にどっと笑いが起きます。
「あ、社長、大変です！　くだらない長話をしているから、もう時間がありません！」
　と、そこで青山さんが社長を次の仕事に送りだし、早々と質問コーナーは終了となります。
「にゃははー。ええボケと突っ込みやったなー。おかげで質問しそびれてしもた。まあ、会社を興した切欠とかは長話の中で聞けたし、よしとしよか」
　と、楽しそうに笑うのは鍋島 奈々美さん。
　一方で、隣の赤羽 勇樹くんは、どこかハラハラとそんな成り行きを見守りつつ、
「いや、そんな繊細な問題に踏み込んだら駄目だろ……。というか、俺はお前があんな感じで粗相をしないか、心配だぞ……」
　と、幼馴染の奈々美さんを横目でちらり。というのも、今回は勇樹くんと奈々美さんは別グループで見学をする予定になっていたからです。
「んん？　なんや、勇樹、もしかしてうちがおらんくて寂しいんか？　じゃあ、寂しくないように抱き着いたろか？」
「なっ！？」
　猫のようにいたずらっぽく笑いながら距離を縮めてくる奈々美さんに身を固くする勇樹くん。
「にゃはは！　冗談やって！　勇樹の方こそ、わくわくし過ぎてあんまりアホなこと言うたらアカンで？」
「べ、別にワクワクなんてしてないんだからな！？」
　謎のツンデレを披露する勇樹くんをよそにオリエンテーションは各見学箇所の紹介ビデオ鑑賞に移行。
　そして、ついにお待ちかねのグループ別見学へと移っていくのです。