●Epilogue

　当然と言うべきか、洋子ちゃん達はそのあと、社員さんや先生達にこっぴどく叱られることになりました。
　が、それは子供のイタズラということで、大きく取り上げられることにはなりませんでした。
　かくして、社会見学が終了し、自由解散となったところで、ギアマスター達はそれぞれの成果を報告するために、一人、また一人と集まり始めるのです。

　赤羽 勇樹くんは、粗相をしたのが、幼馴染でないことにホッとしていました。
「まったく……。ヒヤヒヤしたぞ。だから、あれほど言ったのに……」
「せやから、うちは関係ない言うてるやろ！　でも、あれくらいやらかした方が成果はあったかもなぁ」
　と、鍋島 奈々美さんは、本日の成果が記録された手帳をペラペラ。
　そこに集まった面々に、それを報告します。
　当面、愛光堂はカプギアの販売をやめるつもりはないということ。
　ユグドラシルの営業妨害は認識しているが、法的に訴えるなどの対策はまだ考えていないこと。
　それよりも、より魅力的なギアを開発し、その情報を発信していくとで、正面から問題に取り組もうとしていることなどなど。
「社長さんは素晴らしい人であった。私も日頃から父上にカプセルギアの素晴らしさを伝えているが、やはり社長の人柄があってのギアだったと感じたぞ」
　煌 白燕さんは、実際に間近で見て、話した社長に対するイメージをそう言葉にします。
「ユグドラシルと愛光堂が一緒にプロモーション活動をやってる、ていう線は無さそうよ。まあ、その方がやりがいがあるけどさ」
　と、仙藤 蒼さんは、一連のユグドラシルの事件と愛光堂が繋がっている可能性は低そうだと所感を報告します。
「だとすると、量産型メイジンダーは、ユグドラシル対策の一環かもしれねーですね」
　キリエ・オーラティオさんは、結局、決着をつけ損ねたメイジンダーの姿を思い出しながら、そう言います。
「うちもそう思うッス！　量産型メイジンダーは量産型のロマンと、主人公機のカッコ良さを併せ持つ、他にはないまさしく新しいギアだったッスよ！」
　古尾 桐子さんも、テストバトルで感じた興奮の冷めやらぬ様子で、その感触を言葉にしました。
「キリエのセラフの耐久を一撃で半分近くもっていくたぁ、驚きの性能だったよねぇ。あれは欲しいなぁ。またガチャ廃人への道が始まる気がするじぇ」
　同じくテストバトルに参加し、本物のメイジンダーとも戦った若宮 菫さんは、そのスペックをギアマスターとしても高く評価しているようです。
「MEIJIN、なんかめっちゃ強くなってたよね。まあ、それでも牧くんの方が強そうだったけど」
　と、鈴島 クミさんも戦いこそしませんでしたが、量産型の強さと、MEIJINの進化を確実に感じていたようです。
「ああ。俺も牧のおかげで、何か掴めた気がする。次に戦うときは、進化したダイバーの姿を見せられると思う」
　陸堂 源次くんもそう言って、自分の相棒のギア――ダイバーを見つめます。
　いいえ、今、源次くんが見つめているのは、もしかすると現在のダイバーの姿ではなく、その先にあるダイバーの姿なのかもしれません。
「べつに、僕なんて大したことないサ。皆より少しだけギアマスター歴が長いだけサ」
　牧 雪人くんは、どこか吹っ切れたようにそう言って、自分がベータテスターであったことを自ら口にします。
（MAKIYUKI、また少し雰囲気が柔らかくなったか？）
　洋子ちゃんから返してもらった帽子を被りなおしながら、鳳城 翔くんはそんなことを思います。
　ふと思い立ち、そっと目を閉じて、ろっこんを発動。
　どう思う？　と、相棒のリットに静かに問いかけます。
『そのようだな。MAKIYUKIがSHOに救いをもたらしたように、SHOもまたMAKIYUKIにささやかな救いをもたらしたのかもしれん』
　リットの言葉に、翔くんは小さく微笑むと「そうだといいな」と誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟きました。
「それにしても、結局、A.I.C.O.さんの部屋には何があったんだろうねぇ？」
　と、曖浜 瑠樹くんは頭に大きな疑問符を浮かべるような表情で小さく首を傾げます。
「ねーちゃんは何か見えたのか？　すっごい部屋の中が気になってたみたいだけど……」
　そこで、漁 良太くんがさっきからずっと黙っている洋子ちゃんの顔を覗き込むようにして言います。
「ボクもそこが気になるんだよ！　おねーちゃん、何か見えた？」
　と、柚瀬 玲音さんも興味津々の様子。
「……海堂さん。私も気になります。なんだかひどく動揺していたようですが、いったい何が見えたんですか？」
　大江戸 マンモスさんが洋子ちゃんの目をじっと見て、訊ねました。
　それに、
「――大したことはわからないよ。ただあの部屋に置かれていたパソコンにこれ見よがしに表示されていた回転する7つのアルファベット。あれは間違いなく叔父――おそらくはプロフェッサーＫの仕掛けたものだ。でも、その意味がわからない」
　と、洋子ちゃんは小さく頭を振ります。
　何気に口にした「叔父おそらくプロフェッサーＫ」という言葉に、事情を知らぬ子は驚いた様子を見せます。
「で、いったいなんて書かれてたのサ？　もったいぶらずに言いなよ」
　一方、ある程度は想像がついていたらしい雪人くんはやはりクールな表情を浮かべたまま、洋子ちゃんにそう促します。
　そして、洋子ちゃんはついにその答えを口にします。
「大文字のローマ字で、アール、エー、ケー、ケー、エー、エム、アイだとさ。らっかみだと？　ふざけているね。自分は神だとでも……」
　と、そこまで、言いかけて洋子ちゃんはまわりの皆の表情を見て気づくのです。

　自分が何気なく口にした言葉がそこにいる多くの子供達にとって、とても大きな意味を持っているのだ、ということに――。