●テストバトル場見学(1)

　その頃、テストバトル場の見学に訪れた子供達は、まだ見ぬ新しいギアの出現に胸を高鳴らせていました。
「おー、すごいのです！　見やがれスミレッ！」
　と、興奮気味に飛びかうギアを指差したのはキリエ・オーラティオさん。
「見たことないカプセルギアがたくさんいやがるです！」
　そこでテスト運用されていたのは、少しボナパルト２に似た海賊っぽいギアや、バネのようなボディを使ったピエロっぽいギアなど、ＨＰや広告には載っていましたが、まだ正式に発売されていないギアばかりでした。
「おー。なかなか良さそうなギアだねぇ。これはまた課金沼に突入の予感かなー」
　と、すでに課金沼というオトナの世界を垣間見ている菫さんが少し遠い目で呟きます。
「……まあ、私はセラフ以外は使うつもりねーですが」
「僕ぁ使えるパーツがあれば使いたいけど、とりあえず様子見かな」
　と、まずは色々なギアを見てまわることにしたらしい二人。
　その一方で、最初から全開でテストバトルに参加する子供達もいます。


「むふー、出来立てカプギアのテストバトル！　燃えるッス！　で、相手はどんなギアっすか！」

　本来は関係者以外立ち入り禁止の専用バトルフィールドで、もう待ちきれないとばかりに声を上げるのは古尾 桐子さん。
　彼女が取り出した愛機はカプセルギア、トルーパー。
　そして、それを迎え撃つために、愛光堂のスタッフが持ってきたのは……。
「……え？　それって、確かMEIJINのギアじゃなかったっすか？」
　――なんとメイジンダーＸにそっくりのカプギアでしたから、桐子さんは思わず目を何度も瞬かせてしまいました。
　さらに驚くべきことに、そのギアは一体ではなく、二体、三体とたくさんのスタッフさん達が同じギアを持ってくるのです。
「なんで、MEIJINのギアがこんなにたくさん……！？」
　目を見開いたのは、MEIJINのカプギアに対する正義の心に惚れ込んでいた勇樹くん。
「ふふ、驚いたかい？　じつはね。これはMEIJINのギアを量産型なんだ」
　スタッフの一人がそう言って、勇樹くんに量産型メイジンダーを手渡します。
　それは、よく見れば確かに細部が簡略化されていて、本物のメイジンダーに比べると少しカッコよくないのです。
「凄いな……。MEIJINのギアが量産されてしまうなんて……」
　勇樹くんは、じつはサインが欲しいぐらい憧れのMEIJINのギアが量産されていることに、少し複雑な気持ちを抱えていました。
「でも、それはそれ、これはこれだな……。俺もテストバトルに立候補します！」


「出でよ、俺のカプギア！ジャッジメント！」

　はい！　と元気よく挙手をして、勇樹くんは相棒のギアを取り出し、テストバトルに名乗り出ます。
「はいはい！　うちももちろんやるっすよ！　というか、うちのトルーパーも量産型を意識して組み上げたッスからもはや他人じゃなくて他ギアとは思えないッス！」
　桐子さんもトルーパーを操作して、さっそくテストバトルがスタート。
「ファイヤーガトリングで牽制しつつ、接近だ！　ジャッジメント！」
　いつも練習しているのか、ヒーローっぽく叫びながらジャッジメントを操る勇樹くん。
　それに桐子さんも便乗しようとして、何かいい台詞はないかと考えます。
　そして、
「見せてもらうッス、愛光堂のカプギアの性能とやらを！」
　ついに見つかった台詞をビシっと決めて、桐子さんもヘヴィマシンガンをばら撒きつつ突撃。
「……ノリノリだね」
　と、雪人くんは相変わらずクールな表情。
「MAKIYUKIはやらないのか？　テストバトルなんて滅多にない機会だと思うが」
　翔くんは、慎重に言葉を選びながら、雪人くんの冷めた横顔にそう声をかけます。
　すると、雪人くんは小さく息を吐いて、
「……テストなら、昔、イヤってほどやったからさ。僕、カプギアのテストプレイヤーだったんだよね」
　と、どこかばつが悪そうに言いました。
「へえ、そうだったのか。凄いな」
　翔くんは、それを聞いて、少しホッとしたように言いました。
　何かもっと言いたくないような過去があるのかと思って聞いた言葉でしたから、答えてくれたことそれ自体にまず安堵したのです。
　そんな翔くんを見て、雪人くんは少し意外そうな顔をしました。
「……先にプレイしていたなんてズルい、とか言わないんだ？」
「……ズルい？　思うわけないだろ、そんなこと」
　翔くんは驚いたように訊き返しました。その発想はなかった、とでもいうような顔をして。
　それに、


「……そうか。悪かったね、バカなこと聞いてサ」

　雪人くんは気が変わったのか、静かにそう呟いてから、自身のギアのボナパルト２をスタンバイ。
　相変わらず澄ましたクールな顔でしたが、その口元には少しだけ笑みが浮かんでいたようにも見えました。
　ボナパルト２は右腕のＢスナイパーガンで、量産型メイジンダーの翼を狙い撃ち。
　どうやら地上型のギアでも本領を発揮できるように、支援に努めてくれているようでした。
　その様子を、翔くんは後ろからじっと見つめた後、その視線を量産型メイジンダーに移します。
（……メイジンダーを量産。もしかして、ユグドラシル対策なのか……？）
　ならば、その実力を翔くんも自分の手で試したいと思いました。


「……たとえMEIJINの愛機がベースだろうと、俺達に勝てない相手じゃない。そうだよな、リット？」

　そっと目を閉じ、自身のギアであるリットことセイクビリットに触れること10秒。
『その通りだ、SHO。私とお前の心が一つになれば、必ず勝利を掴めるだろう』
　頼もしげにそう答えてくれるリットの気持ちに応えるように、翔くんもテストバトルに参戦。
　話し込んでいて出遅れた時間を取り戻すように、リットと心を通わせて、一気に量産型メイジンダーに畳みかけます。
　そして、

「ジャッジメント！　ジャスティスブレードでフィニッシュだ！」
「パイルバンカーでとどめッス、トルーパー！」
「決めるぞ、リット！　ラ・スパイラル！」

　三人の声が響くと同時、ギアと心を通わせたマスター達の必殺の一撃で、量産型メイジンダー達は見事に揃って撃墜されました。

「おお、凄いぞ！」「あんな動き、データにあったか！？」「もしかするとMEIJINより強いんじゃ……」

　三人の活躍に、量産型を操っていたスタッフさん達から驚愕の声が漏れます。
「僕が見込んだギアマスター達だからね」
　と、呟いた雪人くんの顔はどこか誇らしげでした。
「うーん、量産型とのバトル、燃える展開だったね！　なんというか、メカニックの血がたぎるよ！」
　と、見学に徹していたクミさんも、その戦いぶりに思わず唸り声をあげていました。
「楽しそうだね、クミ。でも、俺も見ていたら何か掴めそうな気がしてきた。俺とダイバーが次のステップに進むために必要な何かが」
　そう言って、源次くんも相棒のギアのダイバーを取り出します。
「お、源次、テストバトルやるの？　頑張れー！」
「ありがと。行くよ、ダイバー。次は俺達の番だ」
　クミさんの声援をうけて、バトル場に進む源次くん。
　それにバトル場のスタッフ達が「データー……」「次世代を担うギマスター達のデーター……」とかつおぶしを見つけた猫のような表情で、再びテストバトル場にやってきます。
「では、スミレ。私達も一つ、テストバトルとやらにつきあってやるとしますか」
　キリエさんもまた熱いテストバトルに触発されたのか、ディヴァインセラフを手に一歩前へと歩み出ます。
「おー、さすが、キリエん。これはもう僕らもやるしかない展開だよねぇ」
　と、若宮もパーツを取り換えた相棒のユサールB3カスタムを手にキリエさんの横に並びます。

　かくして、次は源次くん、キリエさん、菫さんの3人が、新たに量産型メイジンダーに戦いを挑むのです。