あなたの《誰か》を教えてください！パート２｜リアクション

あなたの《誰か》を教えてください！パート２

「またお前かー！　いい加減にしろよ！」
　滝原レオンは、堪らずそう叫んだ。

　学校が終わり、家へ帰ろうと、校門を潜った時だった。

「見つけたぜ、滝原レオン！」
　誓って馴染んでほしくないのに勝手に耳に馴染んだ声に名前を呼ばれ、声の主の方を振り向く。
　そこに立っていたのは、狗条光（くじょうひかる）。
　木天蓼工業高校の生徒で、レオンを一方的に敵視している、レオン的には迷惑この上ない男だ。
　最初に因縁を付けられたのは、１年くらい前のこと。
　普通に道を歩いていただけだったレオンは、面倒に巻き込まれるのが嫌で、光の隙をついて逃げ遂せた。
　それが癇に障ったのか、却って粘着される羽目になり現在に至る、である。
　そしてここに、「またお前かー！　いい加減にしろよ！」という冒頭の叫びが挿入される。
　レオンの、心からのシャウトだ。
　だがしかし、光の方は、（大変厄介なことに）めげるということを知らない。
「今日こそ決着を付けてやるぜ、滝原レオン！」
「因縁のライバル同士！　みたいな言い方はやめろ！　あと名前も連呼するな無駄に目立つ！」
「うだうだ言ってねえで勝負だ！　ケンカだ！」
　オラァ！　とばかりに殴りかかってきた光の一撃を、軽く避けるレオン。
「チッ！　クソ、背高いうえに銀髪とか超目立つんだよ！　その身長、俺様に寄越せ！」
「だから！　俺は！　目立ちたくて！　目立ってるわけじゃ！　ねえんだよ！」
「この俺様より目立っておいて、何抜かしてやがる！」
「ていうかマジで付きまとうのやめてお前がいると余計目立つんだよ！」
　最後の台詞とか、もうワンブレスである。
　しかし、レオンが幾ら魂の咆哮を轟かせようと、相手には全然響かない。
　更によろしくないことに、２人は、辺りの人々の注目の的になってしまっている。
　やだ、ケンカかしら？　なんて声が耳に届いて、レオンは痛む頭を抱え込みたい気持ちになった。
（……まずい、このままだと先生が来る）
　ただでさえ、目をつけられやすい外見のレオンだ。
　他校生と騒ぎ起こしただなんて見なされた際には何を言われるか、考えるだに恐ろしい。
　レオンは覚悟を決めて呼吸を一つ――渾身の一言を放った。
「あ！　UFO！」
「え！？　マジかよ！？」
　声を上げると共に明後日の方向を指差せば、光はぐるりとそちらに眼差しを移す。
　生まれた隙を狙って、レオンは脱兎の如くに逃げ出した！
「おい、何もねえじゃんか……って、あ！　コラ、待ちやがれ！　逃げ切れると思うなよ！」
「だー！　うぜえ！　しつこい！　こっち来るなー！」
　光の怒声が追いかけてくるが、レオンは振り向くことなく、走る、走る、走る。
（あーもう！　……この上女装してる時までしつこいんだ、本当に勘弁してくれ！）
　そう、レオン、何を隠そう、女装をして『滝川怜』を名乗っている時も、光に付き纏われているのだ。
　ライバル（一方的）ではなく、がっつり一目惚れをした美人さんとして！
「……はああ」
　口から、勝手に深い深いため息が零れ落ちた。
　空の色は徐々に、夕暮れ時の橙から夜を呼ぶ紫へと変わり始めている。
　不毛な追いかけっこがいつ終わるのかは、神のみぞ知る、だ。