あなたの《誰か》を教えてください！パート２｜リアクション

あなたの《誰か》を教えてください！パート２

　夕食後、桜花寮の自室での勉強中。
　恵御納夏朝は、ノートにペンを走らせる手を止めて、ふと思った。
（そういえば……『カプセルギア』、かぁ……）
　子供達が楽しそうに遊んでいるのを、夏朝も見かけたことがある。
（簡単に手に入るらしいけど、買おうかな……どうかな……）
　考えてはみるものの、すぐには答えが出なかった。
　結論を出せないまま風呂に入り、寝間着に着替える。
「さて、今日はそろそろ寝……あれ……？」
　電気を消して、ベッドに――入ろうとした、その時だ。
　夏朝の目が、窓辺にちょこんと腰掛ける小さな影を見留めて、瞬かれたのは。
（部屋の窓辺に……妖精さん？）
　その影は、猫の耳と尻尾を生やした、妖精の少女の姿をしていた。
　妖精の羽が、春の柔らかな月明かりを浴びて、濡れたように美しく光っている。
　妖精の少女はこちらをじっと見つめていて、だから夏朝は、そっと、窓辺へと近づいた。
「えっと、こんばんは。僕の名前は、恵御納夏朝。君は？」
　かけた声に、返事はない。
（喋れないのかな？　それに、動けない？）
　万が一、何かしらの異変に巻き込まれてのことだったら一大事だ。
　ごめんね、と声をかけて、夏朝は、妖精の少女に遠慮がちに触れ、優しく抱き上げた。
　抵抗はない。少女は、身動ぎさえもしない。
（この子……もしかして）
　ギアかも？　と気付くまでに、少し、時間がかかってしまった。
　だって、流行りのおもちゃが、まるで魔法のように窓辺に現れるだなんて。
「そうだ、スマホ、スマホ……」
　窓辺に少女――カプセルギアを座らせ直してから、スマートフォンを手に取る。
　インストールするのは、専用アプリ【A.I.C.O.】だ。
「登録……に、僕とギアさんの名前がいるんだね」
　本名を入れるのに少し抵抗があって、夏朝は、『かさねこ』という名前を登録した。
　ある仮想空間で使っている名前を、ギアマスターネームとして流用したのだ。
　次に、カプセルギアネームの登録だが、
（ギアさんの名前は……うーん……）
　ちょっぴり難しい顔になって、頭を捻る。
　空を飛んできたみたいに、２階にあるこの部屋の窓辺に静かに現れたカプセルギア。
　一体この子には、どんな名前が相応しいだろうか？
（空……天……あま……。あまねく……あまたの……？）
　ぱちん！　と、頭の中に、光が弾ける。
（数多の……普く数多のものを、僕は守りたい。……うん、この子の名前は決めた）
　焦げ茶の双眸で、カプセルギアを、真っ直ぐに捉える夏朝。
　その瞳には、晴れた色が覗いていた。
「君の名前は、『アマネアマタ』……だと少し長いから、『アマネ』って名前で登録するね」
　登録、完了。
（僕の、僕等の所に来てくれた理由はわからないけど……）
　それでも夏朝は、この出会いを、嬉しく、愛おしく思う。だから。