あなたの《誰か》を教えてください！パート２｜リアクション

あなたの《誰か》を教えてください！パート２

　ある日のこと、鴻上彰尋は、弟の鴻上将尋（こうがみまさひろ）とスーパーマーケットに出かけていた。
（将尋も一緒なら、今日はちょっと多めに買って帰れそうだ。今日の夕飯は何が良いかな？）
　なんて、カートを押しながら考えていたら、

「お兄ちゃん、僕ハンバーグが良い」
　と、彰尋の顔を見上げて、瞳をきらきらと煌めかせながら訴える将尋。
　そんなに目を輝かせて言われちゃうと、と、彰尋は、優しい苦笑いを零す。
「ねぇ、ダメ？」
「そうだな……うん、今日の夕飯に考えるかな」
「ほんとに？」
「本当だよ。ええっと……ハンバークにスープとサラダって感じなら、買い足すのは少しだけで良さそうだ」
「コンソメスープもあるの？　やった！」
　声を華やがせる将尋の様子を目に、彰尋は、そっと目元を和らげた。
　家族の中でも、特に美味しそうにご飯を食べるのは、将尋だ。
　小学３年生になる将尋は、双子の片割れである千里と比べるとちょっとおとなしめの性格だが、
（……最近はどうも、冷蔵庫の中にあるものを一回確認されてから、作れそうな物を頼まれているような……）
　という気もする彰尋である。
　沢山のリクエストには中々応えられないけれど、
（もしかして、これは段々、採用のコツを掴まれてきてる……？）
　と、彰尋は、足取りを弾ませている将尋をちらりと見遣った。
　お兄ちゃんの作るご飯が大好きな、明るく素直な甘えん坊の将尋。
　けれど、もしかすると、小さな策士でもあるのかもしれない。
　あくまでも、『もしかすると』の話だけれど。と、その時。
「ねぇねぇお兄ちゃん、お菓子も買ってもいい？」
　将尋が、甘えるような声を出して、彰尋の服の裾をちょんと引いた。
　気付けばカートは、お菓子売り場の入り口に差し掛かっている。
「うーん……とりあえず、ちょっと見ていこうか」
　お菓子売り場で、将尋は、おもちゃ付きのお菓子を手に取った。
　それからもう１個、可愛いピンク色のパッケージのお菓子へと空いている方の手を伸ばす。
「あれ？　２個も？」
「１個は、お留守番してるちーちゃんの分。ちーちゃん、これ、好きだから」
　将尋が２個目のお菓子を掲げてみせるのを見て、彰尋もすぐに「ああ、成る程」と得心した。
　お菓子に付属の、おもちゃながらにきらきらと愛らしいアクセサリーは、妹の好みにぴたりと填まる。
「ちーちゃん、ちょっと機嫌が悪かったから、これで機嫌が直ったらいいなぁ」
「あー……。そういえば、買い物に来るか聞いたらいかないっていってたものな……」
　出掛ける直前の出来事を、思い出す。
　のんびりとプレイしていたゲームをすぐに置いて、「行く！」と元気いっぱい宣言した将尋とは対照的に、
（千里は、顔も上げなかったもんな……）
　腕を組む彰尋の顔を、将尋が些か緊張した面持ちで覗き込んでいる。
　暫くして、彰尋は「よし」と小さく頷いた。
「お菓子、買ってもいいよ。千里も、これで機嫌が直ったら重畳だし」
　やったぁ！　と、将尋がジャンプする。
　その姿を、彰尋は微笑ましげに見つめていた。

　そして、その帰り道。
「最近、学校はどう？」
　と、彰尋は、「僕が持つ！」と手に取った大きめの袋を懸命に運んでいる将尋へと声を投げた。
　将尋が、兄の方に顔を向けて、にこっと笑う。
「楽しいよ！　この間なんかね……」
　ふくふくと明るい声で語られる将尋の話を耳に、彰尋は小さく微笑んだ。
（自分の時はちょっと苦い思いもしたから、学校生活が楽しそうでよかった）
　なんて、あたたかな想いを胸に抱えて。