あなたの《誰か》を教えてください！パート２｜リアクション

あなたの《誰か》を教えてください！パート２

　場所は、旧市街に位置する神社――の、近くにある公園の中。
　７月のきらきらした陽射しは、暑いだけでなく目にも痛いほどで、
「ふう……ちょっと休憩しようかなあ」
　と、この休日も常のように猫探しに励んでいた万条幸次も、一旦休憩タイムに突入した。
　日陰に腰を下ろして夏の煌めきが焼き付いたような目を閉じていれば、
「幸次！　幸次ってば！」
　と、親しげな声に間近で呼ばれて、ゆるゆると瞼を開き顔を上げる。
　声の主は、チャラそうな雰囲気のお兄さんだった。
　幸次よりも、明らかに年上だ。２０代前半くらいに見える。
　そして、懐っこい笑顔を浮かべている目前のその相手は、幸次の見知らぬ人なのだった。
「えっと……どちら様、ですか？」
「うええ、幸次、酷いじゃん！　オレ！　花遊！」
「花遊……？」
　相手の言葉を繰り返す幸次の声に、訝しげな色が乗る。
　花遊（かゆう）は、万条家の飼い猫だ。
　現在は幸次と、１人と１匹暮らしをしている。
（子猫の時から弟みたいに思ってたけど、花遊ってこんなキャラだったのか？）
　問題は、そこではないような気がするのだが、
（まあ、本人……本猫？　と話したわけではないから、俺の思い込みかもしれないけど）
　と、何はともあれ、幸次は一先ず、得心したとばかりに頷いた。
「わかったよ。ちょっとイメージと違うけど、花遊なんだよね？」
「うん、そうそう！　な、幸次。いつもみたいに、頭撫でてくれよ！」
　屈んで、甘えるように頭を寄せてくる花遊。
　言われるがまま、幸次は、花遊の頭を試しに撫でてやった。
　花遊のかんばせの上で、うっとりとした笑みが蕩ける。
（あ、このふにゃーっとした笑顔は花遊だ）
　一応の納得は確信に変わったが、その一方で、
（傍から見たら、成人してる兄を高校生の弟がよしよししてる不審な光景かもなあ）
　と、幸次は花遊の頭を撫でる手は止めないままに、内心に苦笑した。

　そのあとで、幸次は、花遊と並んで公園を歩いた。
「懐かしいなー」
　と、からからと笑う花遊を横目に見遣って、幸次は、花遊の境遇に想いを馳せる。
（元々、花遊はこの寝子島の野良出身らしいんだよね）
　生後間もない時に、親猫とはぐれてぽつんといたところを保護されたのだという。
　そして、結局、花遊の親猫は見つからなかった。
　里親を募集していたのを、幸次の母親が引き取って、花遊は万条家の子になったのだ。
「花遊、保護されるまでの間にここにも来たのか？」

「お、幸次、よくわかったな！　さすがオレの弟！」
「って、」

　俺の方が年上だよ！　と言おうとしたところで、ぱちりと目が覚めた。
（あ、座ってるうちに寝てたのか……）
　幸次の傍らでは、猫の姿の花遊が、丸くなって眠っている。
（お前は島からうちに来て、それでも良かったと思ってるか、って）
　――聞き忘れたけど、きっと聞くまでもないよね。
　胸の内に呟いて、幸次は、花遊の頭を、夢の中でしたのと同じようにくりくりと撫でた。

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