＜天穹＞月光満ちる世界に、餞を｜リアクション

＜天穹＞月光満ちる世界に、餞を

序：祝いのなか

　――祭の会場にて。
　花々が咲き、人々が明るい表情で祭を楽しんでいる。その中に、天狼族となった曖浜瑠樹が縁日の食べ物をおいしそうに食べながら回っていた。
　賑やかな様子に興味を示し、その方向へ向かう。と、舞台では各国の皇族が天帝へ捧げる舞を披露していた。雅やかな音楽の中、美しい舞を見せる姿を、瑠樹は祈りながら見つめていた。
（神様達……今を生きる皆の意思を聞き届けてあげてほしいなぁ！　あと、神様達が捧げものをおいしく幸せに食べたり飲んだりできてるといいなぁ……）
　ふと、舞台の奥を見ると祭壇が設けられていた。そこに積まれたお酒や果物、食べ物を見、届くといいなぁ、と見つめていると、音楽が一際激しくなる。
　曲調が変わり、皇族の舞から巫女の舞にうつる。と、見覚えのある女性が舞台に姿を見せた。
「！　綺麗だなぁ……」
　瑠樹の眼の先、赤い衣を纏った仙藤紫が優雅な所作で一礼した。

　紫は、元々講義を終え「これからどうしようかしら」と考えながら大学構内を歩いていた。……が、我に返ると、そこは見覚えのある、それでいて異国情緒あふれる場所。周りには赤い翼を背負う者や角を生やした物、虎や狼の耳やしっぽを持つ者など、まず寝子島では見ないような出で立ちの人々だった。
（ここは、月華世界？！）
　僅かに目を見開いた紫だがすぐに冷静さを取り戻し、「事故とか起こっていなくてよかったけれど……」と、ほんのり思った。
　気を取り直し、紫はのんびりと屋台を回る。甘い餡の入った満月焼きや甘酸っぱい果物の蜜がかかった練り醍醐、甘辛いタレがかかった団子などを食べているとなんとなく楽しい気持ちになってくる。
「偶には、羽を伸ばすのもいいかもしれないわね」
　お茶を飲みながら楽団の曲でも聞こうか……など考えていると、一人の女性が紫を見て近寄ってきた。花の簪で灰色の髪を纏め、赤い飾り紐や銀の鈴等で飾った巫女服を纏った、若い女性だ。どの種族かは分からないが、背は紫の頭半分ほど高い。
「貴方、今時間ある？　ちょっと来てもらえないかしら？」
「……それは、なぜかしら？」
　突然の事に目を丸くする紫に対し、彼女は困った顔で紫の手を取った。
「巫女が、一人病欠なのよっ！　貴女、前に巫女をしたでしょう？　だからお願いっ！」
　紫は、「あの事を覚えていたのね」と内心で驚きながらも、舞台に上がることを決めた。

　：＊：＊：＊：

　――祭殿・皇族席

　舞を舞い終わり、身体を休めていた白虎族の若き皇・白鋼の元に一人の麒麟族が伏せるように頭を下げた。そして祭の祝辞を述べる。
（祝辞と挨拶だけはしておかないとな）
　彼は顔を上げ、身を起こすと、手土産である菓子を取り出した。丸くてころころとしたマカロンである。６種類の色と風味は月華世界に生きる民をイメージしている。
「ほぅ、雪衣貝（せついばい）に似ているな。だが、香りが微妙に違う。寝子島の菓子か？」
「はい。マカロンといいます。毒味は済んでおります故に」
　青年……麒麟族に変身していた八神修は、にこり、とほほ笑んで答える。白鋼は白いマカロンに口をつけると、「美味いな」と幸せそうにつぶやいた。
「……移住者を、星幽塔へ案内してきます」
「しっかり頼む。もう魔物は出ないだろうが……野生動物などがでることもあるからな」
　白鋼の言葉に、修はしっかりと頷く。

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