＜天穹＞月光満ちる世界に、餞を｜リアクション

＜天穹＞月光満ちる世界に、餞を

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　ぶっつけ本番だというのに、紫はなんとか目立つミスをせず舞い終えることが出来た。幸い、過去に舞った舞で似た動きをした事があったからだろうか？
「とっても綺麗だったよぉ～！」
　瑠樹が満面の笑みで拍手する。それは他の観客も同じ。更には、特別席にいた皇族たちもであった。
　皇族を代表して白鋼が立ち上がり、舞の見事さを褒める。そして……巫女の中に紫を見つけ、「月華世界の舞は楽しかったかい？」と笑顔を向けたのだった。
（なんだか、気恥ずかしいわね）
　拍手の中、紫はうっすらとほほを赤く染めながら今一度、優雅に一礼するのであった。

　舞の後、瑠樹は屋台を回りながら寝子島の話を月華世界の住人達に話していた。やはり住人たちの中には寝子島や星幽塔に興味を持つ者も少なくはない。
「うん。寝子島ってね、空から見ると猫の横顔っぽく見えるんだよぉ。でねぇ、ゆるきゃらのサンマさんやマンボウくんっていうかわいいゆるキャラがいるんだよ」
「……ゆる、キャラ？　それはどんな物なんだい？　守り神みたいなものなのかい？」
　瑠樹とあまり変わらない年頃の少年が不思議そうに問いかける。瑠樹はうーん、と考えて「ゆるキャラってねぇ……」と彼なりに説明しその時微妙にほんわかとした空気になったとか、ならなかったとか……。
（うふふ、楽しそうね）
　舞を終えまた散策に戻った紫はその様子にほっこりしながら桜の花に似た花弁の浮くお茶を飲む。甘い香りのお茶は、とても心安らぐ味でそれにもほっこりしてしまう。
　耳を傾ければ、瑠樹が別の話をしていた。星幽塔に移る者なのだろうか、その事について聞く者もいた。階層についてのようだ。
「星幽塔の第六階層にはねぇ、素敵なお姉さんがいるんだよぉ」
　どうやら、アステリズムが一人、フローレンス・アイメルトの事らしい。瑠樹は少し考え、少し真面目な顔で言葉を続ける。
「過去の事とか、色々あったけど…今は皆となかよし、だと思うねぇ。ゴーレムとか使ったりできるんだよぉー！」
　身振り手振りを交えて話す瑠樹に、話を聞いていた者の１人が慌てた様子になる。
「話、楽しかった。ありがとう！　俺はその階層で暮らそうと思うよ！　急いでいかなくちゃ」
　そう言って、青年は走り出す。その方向を見れば砂地を往く船が見えた。魔物から人に戻った人々の一部が星幽塔へ引っ越すと知った瑠樹は、波止場へと走り出す。そして、船に乗り込んだ星華たちの姿を見つけた。
（行っちゃうんだね）
　少し寂しい気もするが、星幽塔に行けばまた会える。その事を信じ、少年は手を振る。
「いってらっしゃーい！気を付けてなぁー！」
　その声に、幾人かが振り返って手を振る。そして、星華も、先ほど話を聞いた青年も、笑顔で手を振ってくれた。
「ありがとう！　貴方にも幸せが沢山降り注ぎますように！」
　旅の無事を祈る笛の音色が響く。瑠樹は、護衛につく寝子島の住人を見、よろしくお願いします、と願いを込めて頭を下げた。

　――砂駆船は、砂漠を往く。
　　　その姿が見えなくなるまで、少年は手を振り続けていた。

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