＜天穹＞月光満ちる世界に、餞を｜リアクション

＜天穹＞月光満ちる世界に、餞を

　話し合っているうちに、祠へと到着する。一同は慎重に祠の中へ入り、門の前へと立った。荘厳な雰囲気を宿す門を前に、移転者たちの背筋が自然と正される。
「いよいよ、星幽塔だよ」
　サキリが言えば、星華がこくり、と頷く。緊張している彼女の姿を見、サキリは「大丈夫だよ」と励ました。
「んじゃーいきましょうか！　モフモフ納めはおっけー？　なんてね！」
　武道の明るい声に、一同心を和ませる。これで準備は万端だろう。一行は、ドキドキしながら月華世界と星幽塔を繋ぐ門をくぐり、星幽塔の第一階層へと足を踏み入れる。
がらりと変わった光景に一同が歓声を上げ、武道はくすり、と笑った。
「おいでませ星幽塔！！　……といっても俺は現地の人じゃないから護衛や買い物の手伝いが精一杯だけどね！　力になれる事なら何でも言ってネ！」
「はいっ」
　星華が嬉しそうに返事をすれば、笑顔で頷く武道。そうしながらも彼は周囲を念のために警戒する。
「この辺りは美味しいご飯屋さんも多いし、買い物には不自由しないかな」
　夏夜は護衛として気を抜かないようにしつつ、あれこれと第一階層について話すが、必要以上には語らない。その方が星華達も楽しめると思ったからだ。
「まずは、散策しよう」
「そうしながら暮らす場所とか探していく？　それにどーやって生活していくかも調べておかないとだねぃ」
　夏夜の提案に、陽太が頷き、修も「そうだな……」と相槌を打つ。
「早めに拠点を整えた方がいいかもしれません。同じ場所に暮らす人たちにも挨拶をしなくては」
　星華の言葉に、「なるほど」と美咲紀が頷く。星華たち月華世界の住人達曰く、彼らは引っ越して来た際必ず食べ物を持参して近所数件に挨拶に行く風習があるそうだ。
「それに、荷物がある人もいますから……」
　星華が言う通り、（特殊な袋を使っているとはいえ）大荷物になった者もいる。一同はとりあえず散策しつつ拠点を探しに行くことになった。

　その道中、陽太は星華たち移住者に特技や好みなどを聞いていた。拠点探しに役立つと思ったからだ。そして、武道は真面目に移住者たちの能力変化について考えていた。
（種族の力から星の力に変わるみたいだけど、根本的な戦い方等も見直しになるだろう。その感覚になれるまでは大変かもしれない）
　そこで武道は星華たちに声をかける。星の力については門を出る前にも話してはいるが……。
「ほしびとって第二の、虹？の力が使えるんでしたっけ？　もう使えるようになってますかね？」
「確か虹の力って【ろっこんをコピーできる】んだったっけ……」
　陽太がメガネを正して相槌をうつ。そこで「虹の力が使えるか確かめたいのん？」と武道に問えば彼はこくん、と頷いた。
「俺の力はちょっと危ないし分かりにくいから……陽太くん、お願いできる？」
「あぁ……確かに危険ですね……」
　戦場で効果をみている星華は表情をこわばらせて頷く。と、陽太はふむふむ、と小さな粘土細工を１つ取り出した。
「オレのろっこんは『自作の粘土細工を自在に操る事が出来る』力だから買い物に時に粘土を探して、それから試してみましょうか？」
「なんだか面白そう！」
　陽太の提案に、移住者の少年が目を輝かせる。ほかの者達も興味を持ったようで、概ね賛成のようだ。
（へへ～♪　いい粘土が見つかるといいなぁ♪）
　陽太は、どこかわくわくした様子でにっこり笑った。

（話には聞いていたけど、あれが……）
　クーノ・ヤスピスは街角で見かけた白い虎の耳を持つ人や赤い翼の住人などに、友人から聞いた話を思い出していた。
　彼自身は月華世界に向かったことはない。だが、気にはなっていたようだ。
（こっちの人間も結構向こうにお呼ばれしてるらしいじゃん。って言っても俺はこっちで留守番だけどさ）
　彼はぐぅ、と体を伸ばすと同僚に「ちょっと相性見てくる」と告げ、普段は店でサンプル品になっている箒を一本手に取る。
「ん～…やっぱお前がいいや、ついてきて」
　と語り掛けながら。
（さて、どんな出会いになるかな？）
　どこか弾んだ心地で、クーノは店から外に出た。
手にした箒は、季節を跨ぎしっかり乾燥させたエニシダの穂を、朝明けを告げる鳥の羽を芯とした古木の柄に付け、朝焼けの天蓋のリボンで飾り付けたお洒落な逸品。そして、爽やかな風と共に空を駆る箒で……正統な持ち主がいない為ちゃんとした名は無いが、仮に『朝澄みの箒』と呼んでいる。
「さて……」
　騎士の光の力を使い、ふわりと風にのるクーノは見かけた移住者たちの為に何ができるかな、と僅かに目を細めて考えた。

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