喜雨に濡れ｜リアクション

喜雨に濡れ

【雨に踊れ！】

「わ！？」
　ホームルームも終わり意気揚々、放課後はどうしようかな？　なんて考えながらに校門を通り過ぎようとした、その直後のことでした。
　どっぱーーー！
　といったギオンも大げさとは言いがたい突然の大雨に追い立てられ、吉住志桜里は玄関へととんぼがえり。傘の持ち合わせもない彼女は、しばしの雨宿りを余儀なくされました。
「い、いきなり来ましたね……」
　あたかも幼子が人目はばからず大泣きするかのような、強い夕立でした。おかげで全身ぐっしょり、志桜里はすっかり濡れねずみです。
「……くしゅん！」
　盛夏とはいえさすがにここまでずぶ濡れでは肌寒く、志桜里の肩はぷるると震えます。
「狐が嫁入りどころか、謝肉祭でも開いているんですか。かぶれてるんですか……！」
　なんだか小粋な言い回しの愚痴を漏らしたものの、このままでは風邪を引いてしまいそう。志桜里は手近な空き教室を拝借し、人目が無いことを入念に確認してから、すぱぱっと手早く体操服へ着替えました。
　とはいえ、靴下の替えまで持ってはいません。濡れた素足を床へ下ろすと、ぺったりと水滴が足跡の形についてしまいました。
　人よりいささかに大柄であることを気にしている、年頃の乙女たる志桜里。やけに大きく見えてしまった足型に、気分もちょっぴりドンヨリです。
「さて……ずいぶん時間が開いてしまいましたね。どうやって暇を潰したものでしょうか……」
　はふう。志桜里は大きなため息をつきました。

　玄関へと戻るも、傘を忘れたうっかりさんは志桜里ひとりであったのか、暇を持て余している誰かの姿はありません。
　話し相手もなく、ただただ無為な時間を過ごすのみというのも、なかなかに辛いものがあります。
「……我々が暇を終わりにしなければ、暇が我々を終わらせるだろう……」
　某有名ＳＦ小説のセリフをゆる～いカンジにアレンジしつつ、もーあんまりにもやることナシなもので、志桜里は唐突に筋トレなど始めてしまいました。
　女子高生が下駄箱の脇でやることだろーか、という当然の疑問からは目をそらし、よ、ほっ、と軽快に腕立て伏せをしておりますと。
「あれー？　こんなところでなにしてるの？」
「あっ」
　見つかってしまいました。まだ残っている生徒がいたようです。
　興味深げにほけーっと志桜里を覗き込んだのは、野々ののこでありました。
「いえその、傘を忘れてしまって、雨宿りを……」
「うわーっ、すっごい雨！　そういえば、私も傘持ってないや。でもまあ、いっか～」
　元気な風の子、ののこはそのまま雨の中へ飛び出していってしまいそう。
　志桜里は慌てて、
「あの、ののこさん！　良かったら少し、お話していきません？　暇でしょうがなくって、困ってたんです」
「ん？　うん、いいよ～♪」
　にかーっ。志桜里の救い主は、なんとも無邪気に笑顔を浮かべてくれました。
　これで、暇に殺されることも無さそうです。

　ざあざあ、ざざあと、止まない雨。
　帰るに帰れず、それでも飽きないおしゃべりで交友を深めた、志桜里とののこ。しばらくの後、ふたりは玄関にて、
「やるね～志桜里ちゃん！」
「まだまだ、行きますよののこさん！」
　くるっとターン！　華麗にジャンプ！　キメポーズびしり！
　なんでか、ダンス対決に興じておりました。ヒップホップを好み、ストリートダンスにも明るい志桜里がちょっとしたステップなど披露してみたところ、
「志桜里ちゃんすっごーい！　私もやるー♪」
　ののこ、参戦！
　くるくるしゅぱぱ、しばばばば！　激しくも華麗なムーヴの応酬が始まったのでした。志桜里の切れ味鋭い動きに比べて、ののこはときどき、コケそうになっておりましたけれど。
「それにしても、志桜里ちゃんってすごいね～！　おしとやかなイメージなのに、ヒップホップダンスだなんて。ちょっと意外だったかも？」
「そうですか？　見た目に騙されましたね。ふふふ♪」
　暇つぶしどころか、ノンストップダンシングタイムは日が沈むまで、少しも途切れることはなかったということです。

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