夢のふくびきや、再び｜リアクション

夢のふくびきや、再び

　新田亮が目を開けると、そこは自宅だった。落ち着く雰囲気、匂いなども確かに自分の家であった。
「夢の中……だよな？　よし、変わった所がないか見て回ろう」
　リビング、自室、台所など、やはり変化はない。しかし、浴室に向かった時。
　風呂場が温泉になっていた。深い緑色の暖簾をくぐると、広い脱衣場が。
「これは嬉しい誤算。早速入ろうか」
　亮は脱いだ服を籠に入れて、中へ。
「おお」
　岩風呂だった。洗い場で身体を流し、ゆっくりと肩まで浸かる。
「ふー。中々いい夢だな」
　と、その時である。
　顔を向けると見知らぬ裸の女性。前はタオルで隠しているが、中々刺激的な姿だ。亮は思考停止に陥り、あまりの事態に体が硬直した。
（嘘だろ！？　下手すると通報されるんじゃないか！？）
　手錠をはめられ、バスタオル一枚で連行される自分の姿が過った。
　しかし、女性は気にする様子もなく親し気に笑いかけてきた。
「入ってたの？」
　フランクな第一声だった。
「えと……その、どちらさま？」
「どうしたの？　わたしは亮君のお父さんじゃない」
「お前のような父親がいるかっ、父親要素がゼロだ！」
(むしろ、乳親だな……)
　そんなことを考えていると、女性が近づいて来た。
「何恥ずかしがってるのー？　亮君？」
　恥ずかしいというより、社会的な立場が危ういというか。
「キャッ」
　亮が目をそらした隙に彼女……乳親さんが足を滑らせたらしい。床を滑って、湯船へダイブ。
「なっ！」
　亮はとっさに彼女を抱き止めるが、気づくと亮の右手は乳親の胸をつかんでしまっていた。
「………………！」
　手のひらにおさまるくらい、なんとも言えない柔らかさに思考が停止する。
「きゃあっ」
　先に動いたのは乳親さんの方だった。両手で胸を抱え、慌てて亮から離れる。
「ご、ごめんね、亮君。滑っちゃって」
「あ、いや……怪我がなくてよかった」
　気まずくなったのか、乳親さんは立ち上がった。
「そ、そう。入る前に身体を洗わなきゃ」
　そそくさと洗い場の方へ。
「い、今のうちに出るか」
　この状況は危うい。まるで綱渡りをしているようだ。
「ねえ、亮君。ちっちゃい頃みたいにお父さんの背中流してくれない？」
「お前の背中を流した覚えはない」
「本当に変わらないわね、亮君は」
「今日が初対面だ」
「そういえばあの頃は背中の上の方に届かなくて、泣きそうになってて」
「もしかして人違いか？」
　一切記憶になかった。実際の父親の背中を洗ったことがあったかどうかは思い出せないが。
　くすくすと笑い、ロングヘアを右の肩へと流した。
「ほら、お願い」
「うぐ……」
　断れる雰囲気ではなくなってしまった。亮は腰に巻いているタオルをきつく縛り直し、乳親さんの背後へ。
「はい、よろしくね」
　ボディソープを染み込ませたスポンジを手渡され、ため息を一つ。
　背中の上の方から軽くこすっていく。
「うん、上手い上手い」
　嫌でも横乳に目がいくのだが。
「そろそろシャワー出そうかなぁ？」
　そう言って、蛇口をひねった乳親さんだったが。
「きゃっ、冷たっ」
「うお！？」
　冷水が出てしまったらしく、後ろへのけ反ってきたのだ。
「あ、あぶなっ」
　体勢を立て直すまもなく、亮と乳親さんは後ろへと倒れてしまったのだった。
「うう、今日はよく転ぶ……あ」
　亮は自分の両手の位置に驚愕した。何故こんなことになるのか。
　今度は両手で、乳親さんのおっぱいを鷲づかみにしていたのだ。しかも後ろから拘束するような体勢に。
「受け止めてくれてありがと。でも、掴むのはダメよ？」
「違う、俺は」
「あんっ」
　思わず手に力を入れてしまったようだ。
　そんなことをしているうち、入り口の戸が開く音がした。まさかこんな体勢の時に。
「もう覚めてくれええええっ」
　亮は気力で夢から強制帰還したのだった。