夢のふくびきや、再び｜リアクション

夢のふくびきや、再び

　羽生碧南が目を開けると、そこは寝子島ではなかった。
　近未来の大都会のような場所だ。まるで夜闇を拒絶するかのよう。超高層ビルは溢れるばかりの光をたたえ、足元を縦横無尽に走る道路は光の川のよう。
「……って、超高層ビルの屋上？」
　驚いていると、碧南は殺気のようなものを感じ、その場を飛び退いた。
「っ！　なんなの？」
　コンクリートを抉る音。今まで碧南がいたその場所に爪痕が残っていた。
　目の前に現れたのは毛むくじゃらの化け物は、いわゆるヴィランの使い魔だ。二足歩行、かの有名なビッグフットを思わせる姿。化け物はさらに爪での攻撃を繰り出してくる。
「どうなってんのよ！」
　ギリギリで化け物の猛威をかわしながら、気づく。どうやらこの世界はアメコミ的な世界観らしい。
「あ？」
　遠くのビルの屋上に男の姿を見た。こちらの様子を伺っている。
　すぐにわかった。この世界において碧南の宿命のライバルだ。ガリガリの細い体、帽子に黒いスーツという格好。幾度となく遭遇した毛むくじゃらの化け物の指揮官だ。
　と、集中力が切れた。
　碧南は化け物の攻撃をかわしながら、ビルの屋上を移動していたため、足元を見ていなかったのだ。縁にまで追いやられ、そして、
「あっ」
　バランスを崩してしまい、高層ビルからまっ逆さまに。
「！」
　視界がぐるんと反転し、空が離れて行く。
「このままじゃ」
　そう呟いた時、碧南の姿が光に包まれ、数秒後、弾け飛んだ。全身を指先まで覆うぴったりとしたツートンカラーのスーツを纏っていたのだった。
「こ、これは」
　考えている場合ではない。早くしないと激突する。ビルの壁に手を伸ばし、くぼみに手をかけて、体を引き寄せると、両足で蹴って隣のビルへと跳躍する。
「凄い、体が軽い」
　二棟のビルの壁を交互に蹴りながらジャンプして、屋上へとたどり着く。
　見ると、先ほどの場所で彼が碧南に対し、指をさした。
「宣戦布告？」
　言葉はなかったが。
　碧南の瞳に強い意志が宿る。
「上等っ！」
　碧南は指揮官のいる場所へ向かうため、ビルからビルへと飛び移る。
　しかし、先ほどの化け物が数体、碧南へと向かってきていた。
「来てみなさい！」
　指で空気をなぜる。碧南の動きに合わせて、鎌鼬のような風が起こった。その瞬間、化け物の首がいとも簡単に飛ぶ。
「次！」
　爪の攻撃を避けつつ、宙返りをしながら、さらに腕で空気をなぞると鎌鼬がそれらを切り刻んでいった。
　碧南がバランスを整えて屋上の地面へ着地する頃には刻まれた化け物達の肉片が辺りに散っていた。
「同じ攻撃は効かないわよ」
　碧南は彼を睨み付けた。
「さすがミナだ。ではそろそろ決着を」
　彼がスーツの内ポケットから取り出したのは拳銃だった。
　碧南は確信する。集中すれば避けられる。
　パアンッ！
　一発目は鎌鼬の風で弾丸を真っ二つに。
　パンッパンッパンッ！
　連続で放たれたそれらは宙がえりとバックステップを駆使して回避。
「ふふ、逃げるだけか？」
　計五発目を撃とうと引き金に手をかけた彼に対し、蒼南は化け物の一部だった肉片を拾い上げ、
「させないッ」
　思いっきり投げた。
「なっ」
　予想外の攻撃だったのか、酷く動揺し、拳銃に肉片がかすめて取り落としてしまった。
「くそ」
「いけッ」
　腕を振って、鎌鼬の風を起こすが、
「ふふ」
　余裕で避けられてしまった。
「ミナよ、本当に私の部下になる気はないのか？　それだけの能力があれば」
「そっちこそ、やめる気はないの？」
「ああ、もちろんだ」
「そう、なら、今回は私の勝ち」
「何？　ぐ！？」
　ブーメランのように戻ってきた鎌鼬の風が彼の片腕を切り落としたのだ。
「大丈夫、すぐに手当てをすれば、命は」
「今回は負けを認めよう」
　そうして、彼の姿はビルの屋上の向こうに消えた。
「！」
　遥か下方を覗き込むが、その姿はなく逃げられたのだと分かる。
「今回は、ね」
　ライバルとの縁は続きそうである。

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