ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～｜リアクション

ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～

★夜空の下で悪魔は嗤う（２）

　ブブ・ベルゼの指示を得て前に出た悔恨鳥の羽ばたきが、倉前七瀬と仙藤紫、呉井陽太を襲う。
　全てを捻じ切らんばかりの風をすんでのところで避けて、陽太は、
「ムク、助かったよ、ありがとう」
　と、陽太の意を汲み攻撃の回避に努めた相棒に、声を投げた。
　そのすぐ近くで、七瀬が、「うー、」と小さく呻く。
「先生の声を使って喋るだなんて、卑怯じゃないですかー！」
「驚いたわね。……察するに、あれが、先生の《正気》なんじゃないかしら」
「え？　なら、説得してみるというのは……」
「残念だけど、難しいと思うわ。あの悪魔に使役されているようだから」
　紫が淡々と情報を整理していくのに、七瀬は再度呻き声を上げる。
「何だか、悔しかです。……いえ、先生を取り戻すまで、絶対に負けませんけど！」
「うん、負けられないよねぃ。何か、打開策は……」
　陽太が言いかけた、その時だ。
「ああああああ！！」
　地上から、恵御納夏朝の叫び声。
　見れば夏朝は、悔恨鳥がベルゼの傍を離れたその隙を狙って、悪魔の元へと駆けていくところだった。
「恵御納、無茶だ！」
　サキリ・デイジーカッターが静止の声をかけるが、夏朝の足は止まらない。
　身の内に消し得ぬ戦いの熱を宿し、ベルゼを切り裂く隙を油断なく窺っていたサキリ。
　牽制に努めていたサキリだからこそ、夏朝の行動の無謀さが、嫌というほどわかった。
　ベルゼが、微塵も慌てることなしに、極彩色の小鳥の群れの幻を召喚する。
　目眩ましの魔力を帯びた小鳥達が殺到するも、夏朝は、そのまま真っ直ぐに駆けた。
「――しつこいですよ、お嬢さん」
　次いで、完全に視界を奪われている夏朝を襲う、黒い輝きの嵐。
「っ、」
　声を上げることさえ許さずに、嵐は夏朝の服を、肌を鋭利に裂き、彼女の身体を吹き飛ばした。
　――あまりにも、勢い良く。
（……二度目はない。これが、最初で最後のチャンスだ）
　ベルゼの元へと突っ込む前に、夏朝は密かに、己の身体にねこシールを貼っていた。
　ろっこんの能力で軽くした身体の吹き飛び具合は、夏朝以外の誰も予想をしていなかったもの。
　最早、その勢いを殺せるのは、夏朝自身だけだ。
（っ、今だ！）
　タイミングを見計らっての、能力の任意解除。
　傷だらけの夏朝の身体は、悔恨鳥の頭上へと、ぽふりと落ちた。
　夏朝の、狙い通りだ。
　身体の引き千切れるような痛みに構うことなく、夏朝は、
「これで……どうだ！」
　と、ろっこんで重くさせた折り畳み傘を、手の届く限り、悔恨鳥の目に近い位置に思いっきり叩きつけた。
『痛い！　痛いよ！　誰か、助けて……！』
　ウォルター先生の声が叫ぶのも振り切って、夏朝は、何度も何度も悔恨鳥の目を狙う。
　その時――満身創痍の悔恨鳥の喉が、不吉な予兆のように細かく震えた。