ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～｜リアクション

ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～

★夜空の下で悪魔は嗤う（３）

「……待って！　何か来る！」
　最初に異変に気付いたのは、動揺を覗かせることなく悔恨鳥の動きを観察していた仙藤紫だった。
　その紫が叫ぶと同時、悔恨鳥の嘴から、聞いた者の心に深い悲しみを呼ぶ歌が溢れ出す。
「う……何ですか、この歌は」
　くしゃりと眉を下げ、耳を押さえる倉前七瀬。
　彼を乗せた翼獣も、ふらふらと、その飛び方をぎこちなくさせた。
　耳を塞ぐことさえ敵わないのは、モモとムクも同じだ。
　空中でふらつくモモに、紫は、
「モモ、何とか耐えて。ここで持ちこたえないと、先生を助けられなくなる……！」
　と、己も、端正なかんばせを、胸の内と同様に悲痛に歪ませながら、訴えた。
「押し流されないように、しないと……！」
「ムク、もう少しだけ、頑張って。すぐに、アレを止めるから……！」
　ムクへとそう頼み込んで、呉井陽太は、自作の粘土細工を悔恨鳥に向けて投擲する。
　ろっこんは、早い段階で発動済みだ。
　胸を刺す悲しみがコントロールを少しばかりブレさせたが、
「よし！　ニャッタ君、パド君、頼んだよぅ」
　粘土細工の仲間達は何とか悔恨鳥の顔にとびついて、陽太の意のままに攻撃を開始した。
　猫のニャッタ君の爪が悔恨鳥の目（恵御納夏朝の猛攻を免れた方だ）を引っ掻く。
　犬のパド君は、悔恨鳥の顔に、がぶりと盛大に噛み付いた。
　悔恨鳥の歌が、勢いを失う。
　その機を狙って、夏朝も、再び、ろっこんの力で鈍器と化した折り畳み傘を振るった。
　歌が、今度こそ、止む。
「皆、この鳥のことは、任せて。かく乱させて、悪魔の方には行かせない」
　体勢を立て直したモモの背の上で、紫が、毅然として言った。
　悔恨鳥は、もう、かなり弱っている。
　引き付けておくくらいなら、先刻までほどの人手がなくとも叶うだろうとの判断だ。
「僕も、紫さんと一緒に鳥の気を引きますよー！」
　向こうはよろしくお願いしますー！　と、七瀬も続ける。
「うん、わかったよぅ。じゃあ、行ってくるね。……２人とも、気を付けて」
　頷いて、陽太は、ムクに合図をすると、ブブ・ベルゼの方へと向かった。
　夏朝も、身体を再び軽くし、悔恨鳥の頭からふわりと跳び下りて、悪魔の元を目指す。
　悔恨鳥の歌に苛まれながらもベルゼを抑えていたサキリ・デイジーカッターが、
「さて、どうかな。形勢逆転といったふうに見えるけど？」
　と、不敵に笑んで、得物を軽やかに構え直した。