ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～｜リアクション

ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～

★夜空の下で悪魔は嗤う（１）

　ミラの情報を頼りに、ウォルター・B先生の《正気》とブブ・ベルゼが位置する場所へと向かった面々は、
「……貴方がたは、どこまでもワタクシの邪魔をしますね」
　時を知らない夜空の下で、ベルゼと対峙することになった。
　美貌の悪魔の傍には、巨大なカナリアの化け物が、彼の僕（しもべ）のように控えている。
「先生の《正気》、返してください！」
　翼獣の背に跨り、中空から、真っ直ぐに己の想いをぶつけるのは倉前七瀬だ。
　ベルゼが、にた、と嫌らしく笑った。
「残念ながら、リクエストに応えるわけにはいきませんね」
　――人間の《正気》というのは、魔界ではかなり需要のある品なんですよ。
　さらりと零された言葉に、七瀬は、信じられないとばかりに目を瞠る。
「先生の心は、物じゃなかですよ」
「そうですね、きっと、貴方がたにとっては。ワタクシにとっては、愛しい商品ですよ」
　途端――ベルゼの目前で、白い光が二筋踊った。
　剣呑な気配に悪魔はすぐに身を引き、けれど、その身体からは、鮮血が散る。
「やっと直接対決が叶って嬉しいよ、ベルゼ」
　二振りのナイフを構え、ろっこんの瞬間移動で初撃を決めたサキリ・デイジーカッターは、微かに笑んだ。
　しかし、赤の眼差しは彼の得物の如くに鈍く光を帯び、ベルゼを抜かりなく捉えている。
「……相変わらずの腕ですね。ええ、憎々しいほどに」
「倉前先輩の言う通り、人の心を商品とするなんて取引法違反だ。フツウを守る為に、お前を切り刻む」
「どうぞ。……できるものなら、ね」
　言うや、ベルゼを中心として、黒い光の粒子が舞い踊った。
　煌めく嵐を、サキリは瞬間移動を駆使して、ギリギリのところで避ける。
「やれやれ。接近戦はお好みじゃないみたいだね」
　サキリの呟きが的を射ているのを表すみたいに、ベルゼの前にカナリアの化け物――悔恨鳥が立ち塞がった。
　一方、モモの背に乗って、仙藤紫は上空から、ベルゼの戦術を冷静に分析している。
（ベルゼは基本、守りに徹する気のようね。攻撃は主にあの鳥に任せる、というスタンスかしら）
　ならば。

「シンプルな作戦だけれど……あの鳥をベルゼから切り離して、分断してしまうのが良さそうね」
　紫の呟きに、彼女と同じく、仲間達のサポートに当たろうとしていた七瀬が頷く。
「僕も、それがよかと思いますー」
「オレも賛成だよぅ。先ずは、あの鳥を何とかしちゃいたいよね」
　ムクの背の上、呉井陽太も落ち着いた調子でそう応じた。
　ふーむ、と、七瀬が口元に手を宛がう。
「切り離す方法は……あ、とりあえず声をかけてみますねー」
　言って、七瀬は、「おーい！」と悔恨鳥に向かって伸びやかに声を張った。
「ちょっと、僕たちの相手をしてくれませんかー？」
　悔恨鳥が、隙を突かれぬよう気を配りながらも、上空――七瀬達のいる方へと顔を向ける。
　その嘴が、緩く開かれた。
『……放っておいてよ。僕が殺したんだ。僕のせいで死んだんだ』
　七瀬を始め、その場にいる殆ど全員が息を飲む。
　悔恨鳥の紡ぐ声は、彼らが知るウォルター先生のそれと、全く同じ色を纏っていた。