ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～｜リアクション

ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～

★廃遊園地に狂気は佇む（４）

「っ……嫌、だ。違う。いやだいやだいやだいやだいやだ……」
　志波武道が口にした『警察官』というワード。
　それを耳にしたウォルター・B先生は、頭を抱え、突如、意味の明瞭でないことを呟き始めた。
「僕は……僕の、夢は……シシドウの、夢、は……っ！」
　台詞の最後の部分が、音割れするみたいに跳ねる。
　ウォルター先生が、片手で頭を押さえたまま顔を上げた。
　その時にはもう、武道は、ウォルター先生の元を目指して疾駆している。
「っ、来るなあああああッ！！！」
　ひび割れた叫び声と共に、ウォルター先生の手に指揮された赤いチョークが一度に何本も飛ぶ。
　正面からチョークの爆撃を何発も受けて、けれど武道は怯まなかった。
（多少の負傷は、覚悟の上だ）
　身体の痛みなど、武道は気にも留めない。
　人の心の弱い部分に付け込む悪魔への怒りが、胸の奥底で煮え滾っていた。
　シシドウのことは、仲間達が抑えてくれるだろう。
　武道を止められるものは、この歪んだ世界のどこにもなかった。
　距離を詰めるや、咄嗟に構えられたウォルター先生の腕に、素早く、手刀を見舞う。
「あ、」
　ろっこんの効果で麻痺し、動かなくなった腕は、彼の動揺を加速させるのに充分すぎた。
「僕の、手が。この手で、守らなくちゃいけないのに。僕の親友を……シシドウ、を、」
「――先生、」
　頬に涙を伝わせるウォルター先生の背後へと回り込み、武道は、彼の首の後ろに二撃目の手刀を打ち込む。

「これは悪い夢ですよ、きっと覚めたときはみんながわらって迎えてくれます」
　――だから今は、おやすみなさい。
　力を失うウォルター先生の身体を、武道は、傷だらけの腕と身体で受け止めた。
「武道さん、ナイス！」
　カイと共に、シシドウを押し留めんと奮戦していた卯木衛の声が、明るく跳ねる。
「これであとは、このシシドウって化け物だけだな！」
「先生……良かった」
　衛と同じくシシドウの相手をしていた、八神修。
　ふっと呟いた彼の口元にも、淡く笑みが乗っている。
（これで一先ず、先生の《身体》の安全を確保できた。それに、向こうの戦力も……）
　その時、思考を遮るようにして、オオウ！　と、修を背に乗せているヨクが咆哮した。
　そうして、修を捕らえ、握り潰そうとぐんと伸ばされたシシドウの腕を、すんでのところで躱す。
「っ……！」
　修に、油断があったわけではない。
　むしろ、彼はどこまでも沈着冷静に、戦況を捉えていた。
　だからこそ、修の驚きは特に大きい。
（シシドウの暴れ方が酷くなった……？）
　生じた異変を前に、けれど修は、すぐにその理由を思索する。
（恐らく……先生とこの化け物は、何らかの形で繋がっている）
　故に、ウォルター先生が意識を失った今、シシドウも安定を失ったのではないか。
（だとしたら……早く決着をつけた方がいいな）
　修の頬に、冷えた汗が、一筋伝った。