ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～｜リアクション

ブリリアントナイトメア～悪魔は残滓の狂乱を弄する～

★廃遊園地に狂気は佇む（２）

　廃遊園地の中に足を踏み入れた卯木衛、志波武道、八神修と２頭の翼獣。
　彼らはすぐに――だらしなく崩落したサーカステントの前に、“その人”の姿を見つけた。
「いた！　ウォルター先生！」
　修の呼び声に、ウォルター・B先生が緩く振り返る。
「――ああ。お客様が来たみたいだねぇ」
　常と変わらぬ、あどけなく柔らかな口調。
　けれど青の双眸には悪戯めいた光は宿らず、口元を飾る笑みは遠目にもどこか歪だ。
「ねぇ、シシドウ。僕達の世界に、お客様は……うん。そうだよね。要らないよねぇ？」
「……“シシドウ”？」
　ウォルター先生の零した言葉を拾い上げ、衛は小さく首を傾ける。
（人の名前か何かか？）
　テントの残骸の陰で、闇の塊が大きく首をもたげたのは、その刹那だった。
「！？　あの怪物はなんだ？」
　いつでも戦闘に移行できるよう構えを取りながら、武道が疑問を口にする。
　問いに答える代わりに、“怪物”は、ずしりとその巨体を起こした。
　“怪物”の身の丈は、５ｍほど。
　腕が異様に発達しているせいもあって、余計に、ずんぐりむっくりとして見える。
　“怪物”の黒々とした身体の中で、小さな赤い目がギラリと光り、途端、
「っ、来るぞ！」
　と修が叫んだ通りに、その不格好な腕が、一行を一度に薙ぎ払わんと動いた。
「カイくん！」
　くくる！　と力強い返事をして、カイが、衛を背に乗せて宙へと飛翔する。
　風を頬に感じながら、衛は“怪物”に向けた眼差しを尖らせた。
（さっきの寒気の意味が、わかった。先生がヘンなのと、アイツのせいだ）
　同じくヨクに飛び乗って難を逃れた修は、
「これでも食らえ！」
　と、ドームで手に入れた金属片を“怪物”の目へと鋭く投げつけ、その注意を己に逃がす。
　言葉通り地面を転がって“怪物”の攻撃を避けた武道が、その隙に体勢を立て直した。
　位置取るは、“怪物”の背後だ。
「まずは、この怪物を……」
　と、油断なく手刀を構えたところで、
「おっと。おいたはさせないよぉ♪」
　歌うような声が耳に届き、同時に、矢のように飛んだ“何か”が武道の首筋を捉えて、
「ぐ……！」
　当たった箇所に、刺すような痛みが走った。
　咄嗟に患部に触れた手が、新たな痛みを呼ぶ。
　慌てて離した手の、その指先には、赤い粉が付着していた。
「これって……」
　学校で見たことがある、と思った刹那、その正体が頭に閃く。
「チョークの、粉……？」
「ふふ♪　だーいせいかーい♪」
　きゃらきゃらと笑うウォルター先生の周囲に、３色のチョークがふわと浮いているのを武道は見た。
「戦う相手は、この化け物だけじゃないってことか……」
　ヨクの背の上、“怪物”の気を金属片で引きながら、修は表情を険しくし、
「武道さん！　大丈夫ですか！？」
　カイの背中に跨る衛は、武道の身を案じて声を張る。
　武道は、“怪物”をチョークから逃れる盾のようにして位置取り、衛へとにっと笑みを向けた。
「ダイジョーブ☆　向こうの手の内も見えてきたし、こっから挽回しよーぜぃ！」
　その反応に、とりあえずは安堵して、けれど衛は、唇を引き結んで“怪物”を真正面から見据える。
（シシドウってのが結局どういう意味かはわっかんねえけど、アイツが強いってことはわかる）
　衛の心が見えたかのように、「くぅ！」とカイが自分の名を呼んで鳴くのに、
「うん、わかってる！」
　と、衛は、声を鮮やかに輝かせた。