あの日のあとで４｜リアクション

あの日のあとで４

　座敷童子が同席する『食事会』から、数日後。
　御巫時子は、旧市街の何でも屋『いぬもり』を訪れていた。
「おはようございます……」
　古い戸を潜れば、「ああ」と低く漏らした店主・犬杜一閃が、眼差しで挨拶をする。
「お前か。先日は助かった。有難う」
「ふふ、座敷童子さんが可愛くて、癒されたお食事会でした。また会いたいです」
　次はいつ開催されるのかを尋ねれば、今のところは未定だと一閃は応じた。
「それは……残念です」
「……まあ、あれは昔からフツウにいるから、『食事会』の時しか会えないわけでは……」
　時子がしゅんと眉を下げたのに、一閃が何かを言いかけた、その時。
「あ、時子！　なになに？　どうしたの？」
　なんて、座敷から店の方へと賑やかに顔を出したのは、犬杜初だ。
　その騒がしさに、彼女の保護者代わりたる一閃が、ため息を零す。
「……初。今は、御巫と『食事会』の話をしていたところだ」
「うえぇ。『食事会』って、あの？」
「怖くなかったので、初さんも次はぜひ」
　ええぇ……と苦い顔になる初と、一切の邪気なくにっこりする時子。
　そのにっこりのあとで、時子は、本日の用事を思い出した。
「そうだ、今日は、依頼をしに来たんです」
　がらり、と、時子は、車輪付きのクーラーボックスを店内に引き入れる。
　中身は、美しく透き通った天然氷だ。
「実家から氷が送られてきたんですけど、珠子さんのところにお裾分けできますか？」
　美味しいかき氷を座敷童子さんたちに食べて欲しくて、と微笑めば、
「……なら、時間があるなら、一緒に行くか？」
　と、座敷童子達に会いたい、という時子の心を察してか、一閃がぽつりと尋ねた。

　座敷童子がいる花笠家の一室は、昼間でも薄暗かった。そこへ足を踏み入れた途端、
「あら……？」
　と、時子は小さく首を傾け、一閃の後ろに隠れていた初が、その反応にびくりとする。
　姿の見えない座敷童子の気配を、時子は、何となく感じ取ったのだった。
　時子との再会を喜び、甘えているような色が空気に混じっている、そんな気がした。
「座敷童子さん、お出迎えありがとうございます。今日は、一緒にかき氷を食べましょうね……」
　かくして、かき氷な時間の始まり始まり。最初こそビビりまくっていた初も、
「わ、シロップ、すごい！　これって、マンゴー？　こっちの抹茶も、本格的な感じ！」
　なんて、すぐに、大いにはしゃぎ出した。
「これも全部、送られてきたんです。イチゴのシロップに、ほら、練乳もありますよ」
「やった！　……なんかもう、色々すごいわよね。天然氷の塊とか、初めて見たもん」
「というか、俺達まで馳走に預かってしまって良かったのか？」
　一閃が少し戸惑ったような顔になるのに、時子は、
「一閃さんたちにも、お裾分けするつもりだったので。寮の冷凍庫には、とても入りきらないんです」
　と、初にも言及された天然氷の塊の姿を思い出して、優しい苦笑いを零した。
「今年の夏も暑いですから、心配してだとは思うのですが……」
「ふふ、素敵なご家族ですね」
　お盆に乗せたかき氷を手に部屋へと足を踏み入れた花笠珠子が、にこりとする。
　ふわっふわの氷に好みのシロップをかければ、格別の甘味の完成だ。
　座敷童子のために用意したかき氷は、抹茶のシロップに時子お手製の餡子を合わせた、特製の宇治金時。
　大勢でわいわいと食べるかき氷は、何とも格別な味がする。