あの日のあとで４｜リアクション

あの日のあとで４

　動画撮影に挑戦し始めた、その翌日の夜のこと。
　古尾桐子は、サラリーマンである父親の帰宅を察知すると、玄関まで走っていって、
「とーちゃんお帰りッス！　待ってたッスよ！」
　と、元気満点の笑顔で、父親のことを出迎えた。
　とにかく早く父親にしてもらいたいことがあるので、お利口さんに、進んで鞄を受け取るなどする。
　そして。
「とーちゃん！　昨日アップしたどーがの反響はどうッスか？！」
　父親がとりあえず腰を落ち着けるのを確認するや、わくわくを隠そうともせずに、桐子は尋ねた。
　昨日、父親に手伝ってもらってアップした、ミューチューブの動画。
　一体どれくらいの人が、自分の初めての動画を見てくれたのか。
　桐子はその日１日、そのことが気になって気になってしょうがなかったのだ。
「あっ、コメントとかも確認したいッス！　とーちゃん、早く教えてッス！」
　纏わりつくようにして強請る桐子の様子に、父親は、「焦るな焦るな」と苦笑した。

「むー、まだまだ見てくれてる人はすくねーッスねー」
　父親に教えてもらいながら動画の再生回数を確認した桐子は、うむむ、と唇を尖らせた。
　けれど、それも一瞬のことだ。すぐに気持ちを切り替えて、
「でも、何人かコメントつけてくれてるみてーッス！　どれどれ……ふむふむ……」
　と、真剣にコメントをチェックする。
　じきに――桐子の表情は、ぱああっとお日様のように明るくなった。
「おおーっ！　おーえんしてくれてるみてーッス！　初めてのファン獲得ってやつッスかね、とーちゃん！」
　うひょー！　と盛り上がる桐子だが、貴重なコメントのうちの一つは、

　実は父親その人が、別端末から打ち込んだものだったりする。
　勿論、これは極秘の情報だ。
　なので、桐子のテンションは、上がる一方。
「よーし、この調子でもっともっとどーがをアップしてみるッスよ！」
　目指せ！　人気ミューチューバー！
　えいえいおー！　とばかりに拳を突き上げて、桐子はくるりと父親の方を向く。
「あ！　またカプギア関連でどーがとってみるから、とーちゃんも手伝ってッス！」
「はいはい、わかったよ」
「やったッス！　で、とーちゃん、今度はどんな内容がいいッスかね？」
　そうだな……と顎に手を宛がって思案する父親の言葉を、そわそわと待つ桐子。
　娘の期待を一身に受け、やや緊張した面持ちを見せながらも、
「例えば……」
　と、父親は、頭に浮かんだ一案を口にした。
　ふむふむ……と話に聞き入っていた桐子の顔に、やがて、きらきらの笑みが乗る。
「おお、とーちゃんとカプギアバトルしてその様子をうつすッスか！　面白そうッス！」
「だろ？」
「でも……とーちゃん、ギアバトルできるッスか？」
「できないで、こんな提案すると思うか？」
「むむむ、やけに自信満々ッスね！」
　にやり、と、ちょっと大人げない感じに口の端を上げた父親を前に、桐子はぐっと拳を握る。
　そうして、光が弾けるような声で宣言した。
「とーちゃん相手でも、ギアバトルならぜってーまけねーッスよ！」
　うおー！　勝負ッス！　とそのままギアバトルになだれ込みかけて、
「……あ、どーが撮影も忘れずにッス！」
　と、ぴた、と一旦動きを止め、動画の撮影機材の準備を始める桐子（と父親）だった。

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