職業体験に潜む罠｜リアクション

職業体験に潜む罠

　アクセサリーショップに勤務することにした水上桜は、大きな窓で仕切られただけの隣の店舗、ペットホテルの様子を伺いつつデザイン業務を行っていた。
　アクセサリーといっても、今回は高価な貴金属販売ではなく、手作りの物をデザインし制作販売する。
　そして、ここの売りの一つが、ペットと同じモチーフを作成するというものだ。
　首輪やリードの色と揃えたり、同じ刺繍を施したり。どんなアクセサリーにしようかと考えながら動物たちを見ていたはずが、水上の視線は恵御納夏朝に注がれていた。

「シッターさんでも付けられるアクセサリーってないかな？」

　動物の毛が絡まなくて、ゆらゆらして玩具と勘違いされない物で。ふわふわの髪を留める物か、襟元から少し覗くようなネックレスか。
　うんうん唸りながら考えていると、店長から「隣へ配達してもらいたい物がある」と声をかけられた。

「ついでに気になってることも、直接聞いてみたらいいんじゃないかしら？」

　デザインは悪くないのに、しっくりこない顔で隣と図面を見比べていたということは、桜に何か悩みがあるのだろうことは、傍から見ていれば気づく者もいただろう。
　店長もその一人で、解決の糸口になればと配達業務を桜に依頼したようだ。
　にっこりと手渡されたのは、小さな王冠。どうやら、今日のステージに出る俳優犬が、隣にいるらしい。
　店長は、今から人間サイズの物は舞台チームに届けに行くと、犬用のアクセサリーは桜に任せ、先に店を出ていってしまった。
　ここでのお客さんは、人間だけじゃない。
　改めてアクセサリーを作る相手の幅を認識した桜は、与えられた仕事をこなすために、デザイン業務を一旦おいて店を出ることにした。
　隣の店舗なので、すぐに戻ってこれるだろう。そう考えていたのだが、店を出たところで男性に声をかけられた。

「君、このお店の人かい？　様子を見ても構わないかな」

　少し長めの黒髪で、柔らかな微笑みの似合う男性。
　学生ではなさそうだが、彼も職業体験に来たのだろうか？

「はい。お品物でしたら、どうぞご覧になってください。他のスタッフが対応しますよ」
「いや、品物じゃなくてだね」

　一体、品物以外の何の様子を見たいのか。桜はわざわざ声をかけてきた男を少し訝しむようにみやる。

「え、あれ…………まぁいいか」

　きっと、学校とは違う髪型をしているので気づかないだけだろう。決して学校での存在感が薄いので、先生として認識されていないなんてことはない。
　予想外の反応に、しょんぼりとしながら――黒崎俊介は、真っ白い封筒を差し出した。

「お店の人に渡すよう頼まれたんだ。中身は急ぎの用事でもなさそうだし、上の人の手が空いてるときに、一緒に確認してくれないか」
「もしかして、注文書ですか？　はい、お預かりしますね」

　店内には入らず、そのまま去っていく黒崎は、余裕の笑みを湛えながらも背中は哀愁が漂っている。
　そんな姿を見ながら、どこかで見たようなと首を傾げる桜は、急ぎではないということで、まずは言いつけられた用事を片付けるべく、ペットホテルを訪ねることにした。

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