職業体験に潜む罠｜リアクション

職業体験に潜む罠

　アクセサリーショップの調査をしていた武道の元へ、琳子から通信が入った。

「怪盗団の犯人が、先生だって!?」
『そうなの。髪型と服装が違ってピンと来なかったんだけど、今取り押さえたのは黒崎先生よ』

　まさか、自校の職員だったとは思わず、武道は動揺を隠して近くにいた桜へ静かに尋ねた。

「予告状を渡しに来たのは、黒崎先生だった？」
「えっ……どうでしょう。そう言われればそんな気もするし……あんまり特徴らしい特徴も無い人だったような」

　予告状の渡し主の特徴を思い出そうとすると、まるで霞がかったように薄ぼんやりする。
　同じく、校舎内ですれ違ったことくらいあるであろう先生の特徴を思い出そうとするも、一年生の桜には難しかった。

「印象に残らないくらい存在が薄いとなると、黒崎先生の可能性も高いような……」
『あんまり失礼なことは言わないの。でも、これで映像の通りだと、あと二人ね』
「美容室を襲った二人組か……、あの人達も先生って可能性は？」
『わからない……これから事情聴取に入るから、分かり次第連絡するわ』

　通信が切れ、安堵の息を吐く武道を、桜はじっと見つめている。
　気になる単語が聞こえてきたものの、まだ確信を得ていない桜にとって、ほんの数秒でも待っているのは長く感じるほどだった。

「予告状を出したと思われる黒崎先生、確保されたって。怪盗服にも着替えていたようだけど、仲間の数や目的なんかは今から調査することになるよ」
「そう……じゃあ、この店が安心できるわけじゃないのね」

　パトロールや簡単な捜査が体験できると思っていた武道は、思わず本格的な捜査に放り込まれ、気を引き締める。美容院を襲った犯人は捕まっていない、せめて仲間の数が確定すれば良いのだが。
　そんな時、店内に控えめなノックが響く。今、店の調査のために表へcloseの札を出していたが、警察の都合で長時間締めているわけにもいかない。

「俺も付き添うから、とりあえず訪問者の話を聞いてみようか」

　もし、これが怪盗だったら――そんな緊張の元、桜がそっと扉を開ける。そこには、困った顔をした彰尋が立っていた。

「良かった、店員さんみんな休憩に行っちゃってたら、どうしようかと思った」
「この店に、急ぎの用事？」
「うん、次の公演のアクセサリーが、まだ届いてないんだ。何か聞いてない？」
「次の公演って、店長が届けに行った物じゃ……」

　持ち出し記録のノートを見ると、やはり今日の舞台に使うアクセサリーは全て店長が持ち出している。
　チェック漏れがあったのかと確認をするが、やはり保管庫には彰尋が受け取りに来たアクセサリーは無かった。

「すれ違いになっちゃったかな。お店に無いなら仕方ないね、戻って確認してみるよ」

　店を飛び出す彰尋を見て、桜は不安に襲われる。ただのイベントだと思っていたが、本当に事件だとしたら？
　店長がどこかで襲われていたとしたら？

「王の証って……私がルディに届けた王冠はお店にあるし、入り口に飾っていた物も……小さなチャームの在庫だって確認したわ。怪盗はここに来るんじゃなかったの？」
「――そうか！　王冠を持った水上さんに予告状が手渡されたから、ルディの王冠だと勘違いしていたんだ。犯行場所も記されてないし、王の証は別にあるんじゃないか？」

　桜がハッとして、舞台の受付に電話をかける。今日の演目での王の証は杖であること、そしてアクセサリーショップに使いを行かせてないことがわかった。
　慌てて武道が舞台の方へ警護と調査の応援を回そうと連絡をとっている時、桜は勢いよくドアノブを掴む。

「まさか、さっきのは……獲物がどこにあるかの下調べってこと！？」
「え、待って水上さん！　ちょっとま……っはい！　俺も現場にすぐ、はい！」

　彰尋を追いかけようと店を飛び出す桜を、慌てて武道も通信をしながら追いかけた。

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