夏ですよ。ＢＬ同好会！｜リアクション

夏ですよ。ＢＬ同好会！

●星ヶ丘で（*´Д｀）

　さて、ズキュウウウウンン！　状態になったアケーチさんの方を追いかけてみよう。
　……あ。
　カフェからちょっと行ったところで顔を赤らめ、前かがみに悶えてるようだ。
　そこに通りかかったのが、渋い眼鏡の五十代のオジサマ、岡瀬靖久であった。
（おや、あそこにいる男性、顔が赤いけど具合でも悪いのかな……）
　早く逃げてと言いたいが、オジサマにその声は届かず、無防備にアケーチに近づいていく。
「……大丈夫ですか？」
　アケーチの顔を覗き込み、見るからに「しまった！」という顔をするオジサマ。

（……ド変態の人だ……！）

　それは以前『下僕にしてくれ』と突然迫ってきたヤバい人！　はっきり言ってあれはトラウマである。
（なんて日だ！）
　しかも、靖久を見つめるアケーチの目は、熱っぽく潤んでいる。
「……おや！　あなたは、素敵紳士さん……！」
　（そういうあなたは変態紳士さん）なんて、思ったとしても口に出せるわけもなく、靖久は思わず後退る。
「こうしてまたお会い出来るなんて運命ですね、ふふ……！」
「おそらく違うと思います」
「しかも、そんなお優しくしてくださるなんて……」
「あなたと知らなかったもので」
「私惚れてしまいますよ、ふふ……！」
「いや、ですから……」
　話聞いてくれー！　と心の中で絶叫しつつ、一歩、また一歩と後退して、とうとう背中が壁についた。
（絶対絶命だ。こんな所を家族に見られたら……！）
　んふっ、と笑みを浮かべて近づいてくるド変態。
（でも……なんだろう。前の僕だったらすぐさま逃げ出しているのに……彼の瞳から逃れられない……！）
　なぜか勝手にＢＬ的シーンを演じてしまうという神魂のせいだったが、靖久自身は知る由もなく。
　追い詰められ、吐息が掛かるほど顔を寄せてくるアケーチに、心なしか心臓が高鳴る。
「惚れてしまうだなんて……どうせ皆に言ってるんだろう？　大人をからかうんじゃない」
　顔を背けるが、その耳に、アケーチの熱い吐息が注ぎ込まれる。
「ふふ、冗談ではありません。そこまでおっしゃるならば……私の本気、受けてみますか？」
「ッ！」
　靖久はぞくっとして、気付けばまた彼の印象的な瞳に視線を合わせてしまっていた。
　吸い込まれそうな片方きりの紫水晶には、頬を赤らめた自分の顔が映り込んでいる。
　アケーチは、ねちゃりと唇を開く。
「私の愛に性別の差も年の差も境遇の差だってありません、さぁ、貴方の全てを私に見せてください……！」
　抱擁。痺れるような耳元で囁く声。
　靖久は……ついその唇を……。

「いや、ない！　ないから！」

　トマトみたいに真っ赤になって、靖久はアケーチを突き飛ばした。
「僕そういう趣味ないからッ！　誰も見てないよね！？」
　きょろきょろ。
　あたりに人影はない。
　良かった。
　たぶんそう。
　一歩間違えれば、青空の下、アケーチとめくるめく時間を過ごしてしまっていたかもしれないと思うと、靖久はぞっとするやら恥ずかしいやら。
　慌てた様子で脱兎のごとく走り去る。
「おや……もう少しでしたのに」
　唇を舐め、アケーチは名残惜しそうに、ダンスで鍛えたオジサマの素敵なヒップを見つめたのであった。

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