夏ですよ。ＢＬ同好会！｜リアクション

夏ですよ。ＢＬ同好会！

●シーサイドタウンで（*´Д｀）

「あれって……鷹取先輩？」
　うだるような真夏の熱風が吹き抜けるビル街を足早に抜けたところで思い人を見つけた羽生碧南は、とくんっと胸を高鳴らせた。
　期末試験直前。碧南が所属するバスケ部も今日はお休み。
　授業を終え、学校を出た碧南は、住まいである桜花寮に帰る前にシーサイドタウン駅前のmiaoにでも立ち寄って本屋で参考書と乙女ゲーのノベライズを購入しようと、偶然こちらまで足を延ばしたところだった。
　駅前の噴水が、その飛沫で人々に涼を与えている。
　噴水の縁に座るのは猫鳴館住まいの鷹取洋二。
　彼だってここは通り道ではなかろうに。
　これは運命ではなかろうか。
「たかと……」
　声を掛けようと片手を挙げ、そっとその手を下ろす。
　鷹取先輩がひとりではなかったからだ。

　傍らにいたのは、眼鏡の人は海原茂。
　昨年卒業した元生徒会長で、猫鳴館の元自治会長でもある。
　今は木天蓼大学に通う大学生で、ブルーのシャツにカジュアルな感じのスキニーパンツ姿。きちんと首元までボタンを留めていて、真面目そうな雰囲気は相変わらず。大学デビューはしていないらしい。
　海原先輩は久々に会った寮の後輩に表情をほころばせ、時に白い歯を見せて笑っている。
　鷹取先輩の方も、身振り手振りを交え、熱心にあれこれ話し込んでいるようだ。
（何となく話しかけそびれちゃった……）
　けれどその場を立ち去るのも名残惜しく。
　碧南は噴水の反対側に腰かけ、肩越しに二人の様子を見守っていた。
　海原先輩は手を伸ばし、鷹取先輩のワカメヘアーにそっと触れる。
　鷹取先輩も気恥ずかしそうな目つきで、熱っぽく海原先輩を見つめ……。
（って待って待って私！　なんだか妙な気持になってきちゃった……！）
　ドキドキする。
　けれどこのドキドキは、自分が鷹取先輩に恋しているときに感じるそれとは若干別物のようだ。
　ドキドキモエモエってかんじ！

　このかんじ、いわゆるボーイズラブ！
　乙女ゲーム派な碧南としてはそちらを優先することが多くて、嫌いではないが手に取る機会が少ないジャンル。だから、〇〇受けとか〇〇攻めとか特別詳しいわけではない。まあしかしこれは……碧南の主観だが……。

（眼鏡攻め！？）

　普段から乙女ゲーのシチュを脳内妄想して鍛え上げた想像力がきゅるきゅるきゅるっと仕事を始めた。
　ふたりのＢＬ的シチュエーションが脳内に次々再生されていく。
　たとえば猫鳴館時代のふたり。一緒にボロシャワールームでいちゃついたり。壁の薄い猫鳴館の自室で声を押さえながら、あれやこれやしたりとか……そんな過去があったかもしれないじゃない！！（ねつ造）
（『声出してもいいよ』『みんなに聞こえる』……とかとかとかっ！　ハァハァ……私も男の子になって鷹取先輩と……はぅっ！）
　体の内側がきゅんっとする。
　碧南の想像力、いい仕事だ！

　海原先輩と鷹取先輩の顔が近づいている。
　目の前の噴水の水量が増した。まるで大事なシーンをぼかすカーテンのように。
（えっ、なに、なに！？　……キス！？）
　碧南は興奮して後方に身を乗り出し――じゃっぱん！　噴水に転げ落ちた！

「おや？　羽生くん？　何をやっているんだい？」
「い、いえ……なんでも……」

　鷹取先輩に声を掛けられるも、恥かしいやら、モエモエするやら……。
　頬の紅潮を抑えきれぬまま、ずぶ濡れな碧南はいろんなことを誤魔化したのであった。

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