あなたの《誰か》を教えてください！｜リアクション

あなたの《誰か》を教えてください！

　砂原工は、久しぶりに、寝子島を訪れていた。
　今日は、高校の同窓会だ。
（やっぱ、なんか期待するよな、同窓会って）
　――女子と良い感じになれねえかなとか、友達はどうしてっかなとか。
　自然、足取りが常よりも弾む。
　そんな自分を、高校生の頃に戻ったようだと俯瞰して、くすぐったさに工は少し笑った。
　吹奏楽部の部長を務めていた、高校時代の自分。
　目立つキャラではなかったが、「しっかりしている」と度々評されていたっけ。
　思い出が、眠りから覚めるように、ぷかぷかと浮かび上がってくる。
　その中に、彼の――浅葱あやめの姿もあった。
「……元気にしてっかな、浅葱」
　ぽつ、と、呟きが、喉を小さく震わせる。
　１年生の時、同じクラスだった友人。
　２年からクラスはわかれたけれど、それでも３年間、何だかんだと一緒にいた。
（まぁ、仲良かったよな。浅葱なんて他に友達いねーし、構いたくなるっていうかさ）
　暗くて、女々しくて。でも悪い奴じゃなくて、ついつい絡みたくなる。
　高校生の工にとって、あやめはそんな存在だった。
　あやめの方も、工に、心を許してくれていた、と思う。
（それで、うん。だから、あんなふうに弄られたんだ）
　クラスが変わっても、よくつるんで、行動を共にしていた工とあやめ。
　そんな２人を、「ホモかよ」とにやけた声でからかってきた同級生がいたのを思い出す。
　工は、「んなわけあるか」と笑い混じりに返した。
（それで、その時、浅葱は……酷いですよね、って言ったんだ）
　困ったような、苦笑を零して。
（あ。もう一つ思い出した）
　何かの拍子に、「砂原くんが友達でいてくれてよかったです」と言われたことがあった。
　その時、工は、何かが崩れたみたいな、微かな胸の痛みを感じたのだ。
　あれは、あの痛みは――。
　ふっ、と、風が吹いた。
　ハッと我に返ったようになって、工は、瞳を瞬かせた。
　いつの間にか立ち止まっていた自分に気付き、がし、と首の後ろを掻く。
　そうして工は、また、会場への道を辿り出した。
（――そう、フツーの友達だった）
　普通で、だけどどこかもやもやして物足りない、でもやっぱり一番の友達だったのだ――。
　今でも、忘れていない。
　共に過ごした時間も、その中で出会った、彼の様々な表情に、些細な仕草も。

（……今会ったら、あいつはどんな顔するかな）

　そんな問いが、勝手に、頭に浮かぶ。
　あやめの顔を思い浮かべて――工は、「いやいや」と、首を横に振った。
（期待ってそういうんじゃねえし、俺、彼女いたし。なぁ）
　ああ、だけど、きっと。
（やっぱりあいつは、今日も賑やかな輪に馴染めずにいるんだろうな）
　そしてきっと、工のことを見つけて、微かに、ほっとしたように表情を緩めるのだ。
　そんな空想が、自然、工の足を速めさせた。
（久しぶりに会うんだもんな。……楽しみだ）
　口元が、ふうと緩む。
　同窓会の会場は、もう、間近だ。