月夜に届く笑い声｜リアクション

月夜に届く笑い声

　シーサイドタウンの通りを風雲児轟が颯爽とゆく。見た目の怪しい者には容赦ない視線を飛ばした。
　交差点で立ち止まっている時も警戒の目を怠らない。
「この島の平和は俺が守る！」
　轟は親指を立てて言い放つ。信号が青になると同時に見回りを再開した。
「……聞こえる」
　轟は足を止めた。周囲の音を探るかのように目を閉じる。
「俺を呼ぶ声が聞こえるぜ」
　革製のベストの裾をはためかせて疾走した。分岐を物ともせずに駆け抜けて寝子ヶ浜海浜公園にやってきた。
　大勢の子供の声が聞こえる。轟は公園に突っ込んでいった。滑るようにして立ち止まると、その場に片膝を付いた。
「な、なんてことだ。子供達があんな姿に。だが、俺は挫けねぇ！　子供の笑顔を取り戻すんだ！」
　轟は拳を天に突き上げた。その様子を見ていた男の子が同じようにポーズを決める。左手は腰に当てて自分なりのアレンジを加えていた。
「君もヒーローが好きなのか！」
「なんか、カッコイイかなと思って」
「最初にしては様になっていたぜ！　もう少し、足は前後に開いた方がカッコイイぞ」
　轟が微調整を加えてポーズが完成した。男の子は恥ずかしそうにしながらも、どうかな、と感想を求めてきた。
　轟は白い歯を見せて笑った。
「君は今日からヒーローだ！」
「えへへ、そうかな」
　男の子は照れながら、もう一度、同じポーズを決めた。その顔には僅かな自信が見て取れた。
　勝気な目をした女の子が通り掛かりに轟に言った。
「わたしにもできる？」
「もちろんだ。ヒーロー戦隊物に女性は欠かせない存在だぜ！」
　愛らしさの中にも力強さを秘めている。そんな動作を轟は女の子に熱心に教えた。周囲に真似する子供が増えて、まるで体育の授業を見ているかのようだった。
　子供達の反応の良さを目にして轟は真剣な顔で言った。
「みんなはヒーローが好きか」
　集まった子供は、好き、と素直に返した。そうか、と轟は笑った。迷うような間を空けて言葉を繋いだ。
「あのさ。みんなはローカルヒーローって知ってるかな？」
　知らない、と遠慮のない声が返ってきた。轟は納得したように何度も頷いた。
「有名じゃないけど、地域の平和を守るヒーローのことなんだ。実は俺、そんなヒーローを目指している」
「お兄ちゃん、がんばれ」
　一つの励ましが大きな声援に変わった。
「みんな、ありがとう。兄ちゃんはなってやる！　みんなを守れる、寝子島のローカルヒーローになってやるぞ！」
「ぼくもヒーローになる！」
「わたしはローカルヒーローになるもん！」
「みんなでヒーローになっちゃえばいいんだ！」
　子供達は覚えたばかりのポーズを決めた。
「俺は『ザ・ストレイト』として、この寝子島の平和を守るヒーローになってやるぜ！」
　轟は後方宙返りを決めて宣言した。純粋な応援に囲まれて、その瞳は少し潤んでいた。