真夏の...Ahh！｜リアクション

真夏の...Ahh！

　一番暑い時間帯。
　つまり真昼だ。
　自室。しっかり戸締まりし冷気が漏れないようにして、北条冬華はクーラーのリモコンを手にした。
　さっきまで冬華は買い物に出ていたのである。遮るもののない灼熱の太陽の下に。
　当然の結果として汗びっしょりだ。
　まるで着衣のまま温泉に飛び込んだよう。滝のように流れ出た汗が、着ていったタンクトップ、それにホットパンツをぐしょぐしょにしていた。靴下まで濡れ鼠だ。サンダルで行くべきだったか。
　胸の尖端に、貼り付くブラすら熱を帯びている。
　暑いし、透けるし、ついでに視線も集めるし……大変な外出だった。
　エアコンが動き始めたので、冬華も放心状態から我に返る。
「そうだ、生ものがあったんでした」
　独り言して冷蔵庫を開ける。
　エコバッグの中身は生鮮食品、てきぱきと迷いなく収めていく。ぷるっとつややかな肉を詰め、時間をかけ選んだニンジンを詰める。それに、乳脂肪分たっぷりの濃い口牛乳。その他細々したものまで入れきると手首を返し、パタンと扉を閉めたのである。
　それでスイッチが入ったような気がした。
　誰もいませんし――。
　構いませんよね、と言いながら、冬華はするりとカーテンを引く。
　そうして服を脱ぎ始めたのである。身をくねらせるようにしてタンクトップとホットパンツを足元に落とし、拾って洗濯籠に入れる。
「……」
　ほんの少しだけためらってから下着も外し、一糸纏わぬ姿になったのだった。
　――？
　人の気配を感じ振り返ると、そこにいたのは生まれたままの姿、冬華自身を写した全身鏡だった。
　くすっと笑うと冬華は、シャワールームに姿を消した。
　冷たいシャワーが玉の肌を流れ落ちる。汗を流し太陽の熱を流し、豊満なボディラインを伝って落ちる。解き放たれた長い髪も、ようやくオアシスに達した悦びを、のたうつがごとく表現するのだ。

「ふぅ……」　
　さっぱりした後、どさりと冬華はベッドに身を横たえた。
　下着姿。それ以上着用する気にはなれなかった。
　頭上からは清浄な冷気が、目には見えねどクリームのごとくなめらかに下りてくる。室温設定はさほど低くしていないというのに、十数分前とは別天地にたどり着いたような心境だ。
　こんな下着姿でゴロゴロするのは私らしくないですね……、と思う。
　寝間着の薄いネグリジェならあるのだが、それにしたところで、何か着るには少し暑いと感じてしまう。
　なにげなく、指で胸の谷間をさすった。
　汗が出るとこの胸の谷間とかに特に貯まるんですよね……。

　いつの間にか彼女は、自分の胸を掌で包み込んでいる。といっても彼女の豊かなバストは、掌にはとても収まらない。
「自分で言うのもあれですが大きい……」
　言いながらむにむにと揉んでいた。同級生にうらやましがられることも少なくないが、これくらい大きいと実際、服を選ぶのも一苦労だし肩こりの原因にもなるしで、そう良いものでもないのだが。
　冬華は無心でむにむにを続けている。弾力性のある鞠のよう。しっとり温かくて手指に吸い付くような感触もある。むにむにとするたびくすぐったく、少し体の芯が疼いた。
　ふっ、と恋人の顔が冬華の脳裏をよぎった。
　こんな姿、あの人に見られたらどうしましょう……。
　急に気恥ずかしくなり頬を染めると、うつ伏せになって枕に顔をうずめたのである。
　今日は私のメイドのお仕事お休みだけど、どうしてるかな――。
　あれやこれや想像し、可笑しくなったり愛おしくなったり、そんなまとまらない考えをしているうちに、冬華の瞼はとろりと幕を下ろす。
　やがて冬華は、甘く静かな寝息を立て始めたのである。
　恋人の夢を見られたかどうか、それはわからない。