真夏の...Ahh！｜リアクション

真夏の...Ahh！

「今日は日曜日なのデスヨ！」
　カレンダー上の赤文字に、しっかりびっしり指さし確認を行う。
　すでにキュルビス・ラムズイヤーは装着している。
　すっぽりフルフェイスのカボチャマスクを。キュルビスは今日もハロウィン、というか毎日ハロウィンなのだから問題はないのだ。
　暑い？　知らない。
　いやそもそも、これはキュルビス曰く顔の一部なのだからして、マスク装着という認識が間違いなのだ。素顔に戻ったと言ったほうが適切なくらいだ。
　もう一度言う。暑いかなんて、知らない。
「なのデー、キュルビス、遊びに行きやがるデス！！」
　赤文字のうえにぐるりと赤マジックペンで丸をして、彼女は意気揚々と外に出た。

　十秒後、室内に戻ってきた。
　――って思ってたんデスケドー。
　キュルビスは肩で息をしている。その上下する勢いたるや火事場のポンプのごとしだ。
「夏真っ盛りじゃねーデスカー……ちょうナツいデスヨー……。溶けるデスヨー……カボチャのアイスになるデスヨー……」
　十月末まであと三ヶ月くらいあるわけで、ここで討ち死にするわけにはいかないのである。
「ム！？」
　このときキュルビスは、誰かの声を聞いた。耳ではなく心で。
「……どっからかキュルビスのカボチャヘッドを取れば良いってゲンチョーが聞こえてきやがったデスヨ」
　もしかしたら幻聴ではなく、理性の声かもしれないが。
　無意識のうちにキュルビスは、カボチャヘッドに手をかけていた。しかし、ええい！　首を振って両手を下ろす。
「取らねーデス……これはキュルビスのアイデンティティーでデスヨ……」
　でもナツいデスヨー……、これも事実。
　古典的表現でアレだが、このとき彼女の頭上に大きな電球が出現し、ピカッと光った様子をご想像いただきたい。もちろんその電球には、オレンジのインクでジャック・オ・ランタンの絵が描いてあるところまで含めて。
「……ハッ！　そうデスヨ！」
　さっきの幻聴（ゲンチョー）に言い聞かせるように、キュルビスは声を上げるのである。
「こんなナツい日にハー、涼しい場所デー、冷たいものを食べるに限るデスヨ！　冷たいもの！アイス！キュルビス、アイス好きデスヨー！」
　アイス食べてひんやり、これ、正しい夏の過ごし方というものである。
「スパゲッティアイスはねーかもしれねーデスケドー、アイス食べてひんやりするデスヨ！」
　かくして再びキュルビスは、意気揚々と外へ飛び出したのだった。

◇　◇　◇

　その頃、小山内海は自室で、新たな問題に直面していた。
　――それにしても、暑い。
　単純な事実。
　外出はやめて室内で、窓を開け放って描画作業に入ったものの、だからといって急に涼しくなるわけではなかった。
　外に行くよりはマシだけど――。
　日光を直接浴びているわけでも内のに、そもそも室内だというのに、汗がじんわりと浮かんでくるのだ。
　その汗で服がまるでセロファンのごとく、肌にぺたりと貼り付くのもどうにもこうにも嫌だった。
　しばらく海は考えた。
　描きかけのスケッチブックを開けたまま、頭を悩ませた。
　……そっか。
　そしてたどり着いた結論は、シンプルにしてベストなものである。
　脱げばいいんだ。
　脱げば汗で張り付く事もないし涼しくもなるよね！
　それじゃぁ脱ごう。全部脱ごう！

　思い立ったら即行動、海はぽいぽいと上着を脱ぎスカートを捨て、ついに下着を含めすべてを、セミが成虫になるときのように脱ぎ捨てたのである。
　気持ちいい。
　ふわりと風が吹き、海の前髪を揺らした。
　突然涼しくなった。この上もなく。
　ちょっとスリリングなのも含めて、解放された気持ちだった。
　これならいくらでも絵が描けそうな気がする。
　といっても、さすがにカーテンは引いておこうか。

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