逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　制服に身を包んだ志波武道は頬に擦り傷を作った状態で座っていた。掛けた眼鏡のフレームが少し歪んでいる。両手首と両足首はロープで拘束されていた。
　――赤い腕章の人がリーダーっぽい。もれいびか？　煙草の人は腕章がないけど、頼んだぞ、って部分がおかしい。
　それと用心の為ってことは……拉致した人間の能力まではわかっていないってことにならないか？
　深い考察の合間に呉井陽太と目が合った。相手の唇が僅かに動く。武道は読み取るようにじっと見た。二回の繰り返しのあと、笑みを返した。
　――陽太くん、わかったよ。時間稼ぎをすればいいんだね。囮役も任せて！
　武道は黒服の連中に目をやった。一番近くにいた一人に声を掛ける。
「ネーネー、そこのマッチョなオジサン。ヒマだからなんか喋って！」
「うるせぇぞ、小僧。暇ならお前の能力を教えろ」
「それはねー。とーってもデリケートな部分だからー、ナーイショー☆」
　口端に舌を出して笑って見せる。黒服は凄んだ顔で笑みを返した。
「頭スカスカのモルモット野郎は、ここでバラバラにされたいようだな」
「ヒマだからパラパラならやってもいいよー。だからさー、手首のロープを外してネ！」
「そうか、そうか」
　黒服は大股で歩いてきた。露骨に拳を固めた。躊躇することなく、武道の顔面に打ち下ろす。
　鈍い音がして眼鏡が飛んだ。狙ったかのように武道が倒れ込んだ。
「調子に乗るな、小僧」
　言葉を吐き捨てると元の位置に戻った。
　武道は倒れた状態で身を動かす。下敷きになった眼鏡のレンズは割れていた。鋭利な刃物と化した破片を素早く手の中に収める。
「あー、イタタ。酷い目にあったよ、グスン」
　もぞもぞと動いて座り直す。拗ねたように両膝を曲げた。結ばれた両手首で膝を抱えて丸くなる。
「バカが」
　黒服は一言で切り捨てた。
　武道は頭を下げた。手の中に隠した破片を見ていた。両足首のロープに当てて小刻みに前後に動かす。察知されないようにもう一方の手で覆っていた。
　――動く瞬間は皆に合わせないとね。
　陽太と目を合わせる。二人は微かな動きで頷いた。