逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　乱戦模様の中、白真白も懸命に戦っていた。ろっこんで硬化させたリボンは見た目の愛らしさを裏切る凶器となった。
「私だってやればできるんだからね！」
　その時、甲高い音が響き渡る。入り乱れる怒号に穴が空く。一瞬の静けさ。畏怖の目を向けられたのは小柄な女であった。黒いスーツを身に纏い、腕には赤い腕章を付けていた。
　だらりと下げた両手にはオートマチックの拳銃を握っていた。
「こう数が多いと面倒よね」
　のんびりとした口調で気ままに歩く。薄笑いの顔で適当に銃口を向ける。標的にされた人物は恐怖に慄き、泣き顔で身動きが取れなくなった。
　目の当たりにした真白は臆することなく、女の前に立ちはだかる。髪に結ばれたリボンを手早く解いて握り締めた。力を流し込むイメージで『鋼の如く』のろっこんを発動させた。硬化した新たなリボンによって二刀流となった。念の為に制服にも同じ力を付与した。
「あら、よく出来た手品ね」
「拳銃なんかに負けないわ！」
　真白はリボンを振り上げて走り出す。
「撃たないと思っているのなら大間違いよ」
　銃弾が撃ち込まれた。真白の突進は止められた。当たった腹部を手で押さえる。
「ほらね」
「……こんなの、どうってことないんだから！」
　顔を上げた。透かさず両手のリボンを握り直す。
「穴も開いてないわね。面白いろっこんね。でも、生身に銃弾を受けたら、どうなるのかしら」
　女はクスクスと笑う。真白の太腿に銃口を向ける。
　サキリ・デイジーカッターは走りながら横目で見た。表情が険しくなった。
「さっきの人だね」
　新田樹は真白を見て言った。足元で呻いている黒服の顔面を蹴り上げて女の黒服に目を移す。
　二丁の拳銃に意識を集中させた。ろっこん『リトルガーデン』の能力で拳銃だけを瞬間移動させた。
　女は初めて動揺の色を見せた。
「消えた！？　誰の仕業よ！」
「私だけど。おばさん、驚き過ぎだよ」
　樹は苦笑した。両手には奪った拳銃を持っていた。
「小娘が舐めた真似しやがって」
「おばさん、素が出てるよ」
「うるさい、黙れ！　よくわかった。全員、食い千切ってやるよ！」
　女は跳躍した。後方宙返りを決めると豹に変身した。
「……頭蓋を砕いて、血を啜り、蹂躙してやる」
　豹の姿で殺意を口にした。餓えた肉食獣となり、金色の眼を爛々と光らせた。
「大きな猫みたいで可愛い！　でも、威嚇は許せないかな。厳しい調教が必要みたいだね」
「私も一緒に戦うわ！」
　真白は声を上げた。二刀流のリボンで豹に迫る。
「始めようかな」
　樹は童顔とは思えない底意地の悪い顔付きになる。
　本能が働くのか。豹は後退りした。
　地下駐車場に野太い排気音が近づいてきた。豹は戦いを忘れ、一方を向いた。
「ボスよ！　もう誰も逃げられないわ！」
　歓喜した豹は駆け出した。
　数瞬、全員が固まった。その硬直を解いたのは上下左右であった。
「ここから脱出できるのですわ！」
　左右はステッキを振って周囲に呼び掛ける。隅に置かれた車のドアは『Dear Door』のろっこんによって開けられていた。進化能力１の効果で開閉する物が訪れたことのある場所に繋げることができるのだ。
　小さな子供達を各々が協力して逃がした。
「時間稼ぎが必要みたいだね」
　新田樹はリトルガーデンのろっこんで瞬間移動させた物をばらまいた。空き缶や空き瓶で足場は極端に悪くなった。
「私も逃げないと」
　素早く車のドアから脱出した。
　殿は左右であった。ドアの中に入ると、顔だけを出した。殺到する新たな黒服達に向かって軽く頭を下げた。
「ごきげんようなのですわ」
　ドアは閉じられた。最初に辿り着いた黒服は素手でドアを引き千切る。車内には誰もいなかった。

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