逆襲の時｜リアクション

逆襲の時

　葉利沢倫理子は黒服にナイフを向けられていた。
「や、やめて、ください」
　弱々しい声を出した。身体は小刻みに震えている。
「いいねー。その卑屈な表情がそそるねー」
　黒服は顔を歪めた。笑っているようだった。後ろに控えていた別の黒服が欲望に塗れた顔で言った。
「俺にも回せよ」
「構わないが、俺が先だぜ？」
　振り返らずに答える。
「もちろんだ」
「ということだ。そろそろお楽しみタイムといこうか」
　ナイフを片手で回しながら黒服は近づく。
　倫理子の震えが止まった。女王然とした傲慢な笑みを見せた。
「楽しみましょう」
「な、なんだー！？」
　ナイフを握る手を掴まれ、強引に曲げられた。指が嫌な音を立てる。
「私が有効に使ってあげるわ」
　取り落しそうになったナイフを奪った。痛みで前屈みになった黒服の背後に回って片手で首を絞める。同時に首筋に切先を当てた。肌に細い血の筋が流れる。
　倫理子は『Malice in the real』のろっこんを疾うに発動していた。入れ代わった非情な人格であるMaliceが演技をしていたに過ぎない。
「拉致に対抗するには人質が有効ね」
「そうかな。俺はソイツがどうなっても構わないぜ」
「ふざけんな！」
「耳の近くで騒がないでくれる？」
　ナイフに力を込める。黒服は上ずった声で謝った。
「見殺しにするのなら、こちらにも考えがあるわ」
「聞かせて貰おうか」
「無理だと思うわよ」
　背後から近づく朝鳥さゆるに目が流れた。僅かな動きに気付いたのか。黒服は後ろを振り返る。
「俺は誰が相手でも油断しないぜ」
　メリケンサックを嵌めた拳で顔面を狙う。
　悪意を込めた攻撃と認識した瞬間、ろっこん『Stella cadente』が発動した。さゆるは頬を掠める近さで避ける。
　最小限度の動きで相手に近づき、股間に膝をめり込ませた。頭が激しく震えて前屈みとなったところを狙う。後頭部に情け容赦のない肘鉄を食らわせた。
「別人格ではないみたいだけど、良い反応しているわね」
　Maliceはにこやかな顔で黒服の首を絞めていた。暴れていた両腕が力なく垂れ下がる。更に数秒の時間を掛けてから手を緩めた。
「こんなところは早く出て二人で楽しみましょう」
「脱出には賛成するわ」
「冷たいわね」
　Maliceはさゆるの唇を見て、欲情したような顔で笑った。

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