【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　気だるげに寝返りを打った。葉利沢倫理子は薄っすらと瞼を開ける。横向きのまま、ぼんやりと過ごした。
「……静かね」
　ふらりと上体を起こす。儚げな様子で二段ベッドから下りた。室内を軽く見回して、ああ、と声を出した。
「海開きの日……」
　閉じられたカーテンと窓を開けた。心地よい風を受けて眠たげな目になる。
「誰もいないみたい」
　桜花寮はひっそりとしていた。朝陽を嫌うかのように倫理子は背を向けた。
「……私は行きたくない」
　語尾が僅かに震えた。怒りと悲しみの感情が入り混じる。
　瞬間、強く瞼を閉じた。両腕で自身を抱き締める。全身の震えが止まらない。上ずった声で、怖い、と吐露した。
　過去の悪意が心の奥底から這い出る。
　ろっこん『Malice in the real』が発動した。入れ代わった別人格、Maliceは嗤った。
「水着はどこかしら」
　陽気な声で着ていたパジャマを脱いだ。全裸の姿で家探しを行なう。
「嫌がる割には大胆な水着ね」
　見つけた水着を手際よく装着した。適当に見繕った服を着て外へと向かう。
「今日はあなたの身体を使って大いに楽しませて貰うわ」
　舌なめずりで部屋を出ていった。