【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　海水の掛け合いで三人はびしょ濡れとなった。息も上がって気だるげに砂浜へと歩いてきた。
　最初に野々ののこが情けない声を漏らした。
「喉がカラカラ～。このままだと干からびちゃうよ～」
　耳にした仙藤蒼はカクンと頭を下げた。同意しながら不満も口にする。
「最初にこんなことを始めたのはののこ、じゃなくて先輩なんですよ」
「海の家が近くにあるのだから、みんなで行けばいいわ」
　仙藤紫は濡れた髪を両手で何回も掻き上げた。仕上げに軽く頭を振った。
　ののこは海の家を見た。急に目を輝かせて走り出す。ばっひゅーん、と無邪気な声を上げて突っ込んだ。
　後から二人はのんびりと歩いた。
　蒼は苦笑いを浮かべる。
「あれで先輩って、本当に信じられないわ」
「世の中、不思議なことは多いわ。特にこの島はね」
　紫の言葉に、そうね、と蒼は納得の声を出した。
　ののこの興奮は収まらない。両手を振りながら飛び跳ねる。
「もうね、もうね、すっごいよー！」
「野々さん、何が凄いのかしら」
　紫は優しげな目で尋ねた。ののこは子供のように荒い鼻息で言った。
「ジュースがすごいよ！　ゴクゴク飲んでもタダなんだって！」
　蒼は半笑いの状態で顔と手を左右に振った。
「先輩の見間違いですよ。そんなの絶対に、あるよ！　お姉ちゃん、あれよ、あれ！」
　紫は大きなテントを眺めて目を見張る。
「本当ね。クイズ形式でジュースもあるみたい。三人で参加してみる？」
「やるやるー！」
　ののこが笑顔で手を挙げる。
「もちろん、私もやるわ！　ゲームなら負けないもんね！」
「満場一致ね」
　テントにののこが駆け込んだ。参加を宣言して空いているところにドカッと座る。二人は挟むようにして腰を下ろした。
　今回は大人がいなかった。一様に顔立ちが幼い。園児のような子供もいた。傍らには父親と見られる人物が付き添っていた。
　その中に紫が加わる。容姿からは到底、子供には見えない。
「あの、十八です。これでも……」
「お姉ちゃん、ファイト」
　蒼が小さな声で励ました。
　その中、全員にジュースの入った紙コップが配られた。
「はい、飲んでいいですよ」
　店主の声で全員が飲み始める。
　ののこの勢いが凄まじかった。一番を決めて元気に手を挙げる。
「答えてください」
「美味しいジュース！」
「ん、どういう意味かな」
「ジュース！」
　ののこは笑顔で答えた。店主は困ったような笑いで罰ゲームの紙コップを用意した。
「おかわりだね！」
　問題を間違えても堪えていない。置かれた紙コップの中を笑顔で覗き込む。猫かわいがりは八分目くらいに抑えられていた。
　ののこは先程と同じように一気に飲んだ。
　直後に跳んだ。頬を窄めて走り回る。あまままー、と叫んでテントを飛び出していった。
「えー、それでは二番目に手を挙げた、お嬢さん。答えをどうぞ」
「あ、はい。ニャンタかな」
　蒼はののこの走り去った方を向いて答えた。
「正解です！　では、次の問題に行きますね」
　店主は何事もなかったかのようにクイズを続ける。
「……一問も間違えられないわ」
　紫は唇を引き結んだ。
　問題は進み、二人は二問を正解した。最後は同時に手を挙げた。
「では、二人で一緒に答えをどうぞ！」
「ニャルピス！」
　答えが完全に一致した。二人は心配そうな顔で店主を見詰める。
「正解です！　二人にそれぞれ三千円の商品券を贈ります！　おめでとう！」
「やったね、お姉ちゃん！」
　蒼は素直に喜んだ。紫はほっとした表情となった。
「それにしても」
　二人の声が重なる。ののこの消えた方角に目を向けて複雑な笑みを浮かべた。