【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　三折部朝衣と高校時代の二人の友人は肩を組んだ状態で海の家に向かった。真ん中にいた朝衣がわざと舌を出した。
「もう、喉がカラカラ。追いかけっこするにも程度があるわ」
「最後に悪乗りした人物がそういうことを言いますかー」
「疲れたけど、スカッとしたよね」
　その一言には全員が頷いた。
「なんか面白そうなイベントをしてるわね」
　朝衣はスクラムを解いた。先頭に立ち、先にあるテントを指差した。
　一人の友人が顔だけを出す。
「あれってお酒だよね」
「ジュースもあるみたいだけど、二十歳になったんだから、やっぱり利き酒に挑まないとね」
　朝衣は胸を張って歩いていく。二人の友人は左右に付けた。
「でも、疲れた時にお酒を飲んだら酔っ払うんじゃない？」
「大丈夫よ。それにほら、無料って書いてあるわ」
　にこやかな顔で突き進む。二人の友人は目を合わせて、付き合いますか、と苦笑いで付いていった。

　参加者が出揃った。朝衣は二人の友人に挟まれた状態で利き酒に挑んだ。手前の長テーブルに置かれた紙コップをじっと見詰める。
「始めてください」
　店主の声に朝衣は逸早く反応した。紙コップを掴むと一気に喉に流し込んだ。味わう間もなく手を挙げる。
「ビキニの強気のお姉さん、答えをどうぞ！」
「ビールで銘柄はニャールスバーグよ！」
　店主は惜しいという表情で軽く仰け反った。
「正解は一にゃん搾りでした。残念ですが罰ゲームで猫だましいを飲んでいただきます」
　手伝いをしていた八神修が新しい紙コップに注いで運んできた。
「どぶろくなのでビールよりも度数は高いですが、飲み易くて美味しいですよ」
　簡単な説明をして足早に離れる。隣接する屋台に引き返すとカウンター席にいた客の注文を受けた。
　悔しさを滲ませた顔で朝衣は紙コップの酒を呷る。表情が和らいだ。一気に呷らず、味わうようにして飲み干した。
　二人の友人は、大丈夫？　と声を掛けてきた。
「これ、飲み易い。後味も香って、なんか良い感じ」
「平気そうね」
　一人が安堵の表情を浮かべた。
　二問目は焼酎であった。難問らしく、何人も間違えた。その中には朝衣も含まれていた。首の据わらない赤子のように頭が揺れ始める。倒れないように二人の友人は両手を開いて構えた。
　そのような状況で三問目に突入した。解答権を得る為に酒を飲む。その行動だけで朝衣の顔は真っ赤に染まる。目の動きがおかしくなった。
「なんらー、ここは暑すぎるろー！」
　朝衣はビキニのトップに手を掛けた。
　屋台にいた修が慌てて駆け込んできた。手にしたタオルを三人に向かって投げ付ける。
　空中で広がったタオルの両端を二人の友人が掴む。即座に朝衣の胸に巻いた。その衝撃で三人は揃って後ろに倒れた。
「ギリギリでセーフ。そこの君、ありがとう」
　友人の一人が朝衣に代わって言った。
「少し焦りましたが、間に合って良かったです」
　修は喉元を摩りながら持ち場へと急いで引き返していった。