【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　真境名アリサの大胆な水着はどこにいても注目を浴びた。一目では満足できないのか。こっそりと付いてくる者まで現れた。
「少し休みたいわね」
　海の家を横目で見ていく。場違いなテントに引き付けられた。
「利き酒ね」
　勝利を確信したかのように笑みが漏れる。
「あたしも参加するわ」
　中に入った途端、目が合った。
「あら、久しぶりね」
　黒いビキニ姿の桜栄あずさが足を組んだ姿で座っていた。
「あの時はお世話になりました。今日はクイズに参加されるのですか？」
「そのつもりよ。楽しめそうだからね」
　ウェーブした髪を軽く手で払って笑みを浮かべた。
「お手柔らかに」
　アリサは笑顔を返し、あずさの隣のイスに座った。終始、笑みを絶やさない。
　――仕事柄、色々なお酒を飲むから有利と思ったけど、こんな強敵が潜んでいるなんて思いもしなかったわ。
　でも、負けるつもりはない。味覚の鋭さを見せつけてやるわ。
　既定の人数が集まり、速やかにクイズは始まった。
　各自の前に紙コップが置かれる。
「始めてください！」
　店主の声で参加者は紙コップを手に取った。
　アリサは匂いを嗅いだ。少量を口に含む。ゆっくりと飲み下す。
　――喉にスルッと入る。舌に残る味は滑らかで、引き締まった味と香りに特徴があるわ。
　解答権を得る為に一気に飲み干した。
「では、そこの黒いビキニのお姉さん！」
　アリサよりも先にあずさが手を挙げていた。
「猫富士ね」
　答えた瞬間、アリサは驚いた。
　――違うわよ！　お金持ちで酒好きなのに、なんでわからないの？
「違います。では、次に早かった過激な水着のお姉さん。答えをどうぞ！」
「猫踊り」
「正解です！」
　拍手で讃えられた。アリサの表情は硬い。横目であずさを窺っていた。
　罰ゲームで置かれた紙コップ、どぶろくの猫だましいを美味そうに飲んでいる。
　二問目に入った。最初に手を挙げたのはあずさで、また答えを間違えた。罰ゲームの紙コップをにこやかに受け取り、喉を鳴らして飲んだ。
　そのような展開が繰り返され、アリサは三問を正解して五千円分の商品券を受け取った。
　その顔に笑顔はない。薄っすらと開いた目には冷気が宿る。口だけが笑っていた。大股で隣接する屋台に踏み込んだ。
　空いているイスに座ると前のめりの姿勢となった。
「罰ゲーム用のお酒、あるよね」
「もちろん、置いています。代金はいただきますが」
　焼き鳥を焼いていた八神修がにこやかに対応した。
「それでいいわ」
「ありがとうございます。肴はいかがですか」
「何があるのよ」
「焼き鳥は各種。イカの足、ゲソもあります」
　アリサは面倒臭そうな顔で言った。
「ゲソを貰うわ。焼き鳥は適当で」
「わかりました。その前に猫だましいですね」
「わかっているじゃない」
　笑みを見せたアリサの前に紙コップが置かれた。白い液体が並々と注がれている。加減して掴み、ゆっくりと口を付けた。
　一口で止めることは出来なかった。一気に呷って飲み干すと、大きく息を吐いた。
　修は微笑んだ。
「口に合いましたか？」
「豊かな味は甘いだけでなくて酸味もあって、米麹の香りがいつまでも鼻に残るわ。ようは美味いってこと。聞くまでもないよね」
「一気飲みですから」
　その一言にアリサは笑った。