【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

銘柄当てクイズ
　ろっこんの効果が切れた。スポーツウェアを着た岡瀬靖久が寝子ヶ浜海岸に戻ってきた。喉の汗を手の甲で拭い、白く曇った眼鏡で海の家を見遣る。
　急に足が止まった。学校行事でよく見かけるテントの屋根に『銘柄当てクイズ』と達筆な文字で書かれていた。長机を繋げた形で席が設けられ、紙コップに入れられた飲み物を競って当てるらしい。大人は酒で子供はジュースだった。勝ち抜けた者には店主から商品券が贈られていた。
「無料か」
　靖久は生唾を呑みこんだ。断る理由はない。好機とばかりにクイズに参加した。
　エプロンを着けた八神修が手伝いで紙コップを用意する。終わると隣接した屋台に移動した。
　一問目、飲み干した靖久が勢いよく手を挙げた。
「猫島焼酎！」
　店主は渋い顔になる。一転、笑顔で正解を告げた。
「よし！」
　靖久は小さく拳を握る。少し頬を赤くして二問目に挑む。
「これも焼酎れ、猫閻魔！」
　舌がもつれながらも正解した。
　三問目、揺れる頭で答えた。不正解であった。
　修が罰ゲーム用の紙コップを運んできた。
「度数が高いどぶろくなので気を付けてください」
「へーき、へーき」
　靖久は上体を不安定に揺らしながら飲んだ。顔が真っ赤になって目が据わる。座っていたイスから転げ落ちて途中棄権となった。
　靖久は修の肩を借りて立ち上がる。酔い覚ましの水を貰い、テントの片隅に用意された寝袋に入れられた。
「……酔って、ない……ごめん、許して……」
　表情と同じで苦しい寝言が続いた。