【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　巫部紫苑は紫の日傘を差していた。同色の薔薇の花のようなレースに縁取られ、大人の雰囲気を漂わせる。それでいて子供っぽく回して見せた。
「店が多いですね」
　熱っぽい目を海の家に向ける。口元に笑みが浮かぶ。胸が弾んで包んでいた生地から零れ落ちそうになっていた。
　近くにいた旅鴉月詠は透かさず声を掛けた。
「そこの扇情的なお嬢さん！　糖分を欲していますね！　アイスキャンディーはいかがでしょう！」
「いいですね。お一つ、いただきます」
「お好きなのをどうぞ！」
　月詠はキャリーカートに載せたアイスボックスを開けて見せた。四季の花々を詰め込んだような色合いの品々に目を惹かれる。紫苑は悩むような手付きで青いアイスキャンディーを選び出した。
「代金をお支払いします」
「まいどありー」
　月詠は紫苑の胸を見ていた。離れ難いという風に谷間に固執した。
「どうかしましたか？」
「財布の他には何が入っているのかと」
「夢でしょうか」

　紫苑は微笑むと肩に載せていた日傘を回した。アイスキャンディーを口に咥える。啜るような音を立てた。
「実にエロい」
　紫苑に月詠の声は届かなかったのか。海の家の方へと向かう。
「全店全メニュー制覇は時間的に厳しそうですね」
　ずらりと並んだ海の家に困ったような顔をする。数秒の思考の末に笑顔となった。日傘を回しながら右端の店に足早で向かう。
「全店四品くらいに抑えましょう」
　さらりと口にして、一層、大きく胸を弾ませるのだった。