【海開き】賑やかな夏のはじまり｜リアクション

【海開き】賑やかな夏のはじまり

　水上桜は微笑みながら砂浜を歩いていた。フリルビキニは淡い水色で清楚な印象を与える。自身の肩を揉むような仕草で巧みに胸を隠していた。
　――人生初ビキニは、さすがにちょっと恥ずかしいわ。
　胸中で思いつつ、隣に目をやる。友人の有沢茉奈が物色するような目を周囲に向けていた。マイクロビキニはかなり際どい。
「どっかに良い男が落ちてないかなー。彼氏ゲッターとしては妥協したくないしぃ。海だけに大物一本釣りだよね！」
「テンション高いのはいいんだけど、そのぎらついた目はどうにかならない？」
「あの男、割といいかも。ほら、桜はボーっとしない。尻を振って！　色気をもっと振り撒いて！」
　茉奈は血走った目で猛然と向かう。桜は苦笑いで付いていく。
　レジャーシートには若い男性が仰向けの姿でいた。軽く上体を起こす。憂いを秘めた目をしていた。薄い唇は女性のようでいて中性的な魅力を備えている。
　急に茉奈が立ち止まった。歯軋りをして悔しがる。
「どうしたの」
「桜、あれを見なよ」
　横手から女性が現れた。均整の取れた身体はモデルを思わせる。何の躊躇もなく、男性の横に座った。
「チッ、大人の女にやられやがって」
「だんだん口が悪くなってきているんだけど」
「次よ、次！　この若々しい肉体を使って大物を一本釣りするんだから！」
「茉奈ちゃん、声が大きいよ」
　別の意味で注目を浴びた。桜は桜貝のような顔色になった。茉奈の背中に隠れるようにして砂浜を共に回る。
　その間に何人かの男性に声を掛けられた。茉奈は笑顔ながらも素っ気ない。やんわりと断る。
「ごめんねー。今、ダブルデートの最中でぇ、もうすぐ彼氏と合流しないといけないからぁ」
　妙に甘ったるい声で五人目の男性に手を合わせた。距離が離れたところで桜が聞いた。
「今の男性、顔は悪くないよね」
「アレは全然ダメ！　耳のピアスと海パンが安っぽいし、肝心の顔も作りものじゃないの。ぱっちり二重のつもりなんだろうけど、右目が元に戻り掛けていたわ」
「茉奈ちゃん、すごいね。全然、気付かなかったよ」
「桜はもっと心の目を鍛えないとね！」
　ビシッと指を立てて言い切った。
　――目敏いだけで心の目とは少し違うんじゃないかな。

　思いながらも、そうだね、と笑って返した。
　砂浜の放浪は続行された。その果てで茉奈が吼える。
「あー、イライラするんじゃー！」
　海へと駆け込んだ。桜が急いで追い掛ける。
　茉奈は飛び込み台に上がった。猛然と階段を駆け上がり、大空を蹴飛ばす格好で飛び出した。
「夏の恋なんて、あるかー！」
　飛び込む近くに桜がいた。局地的に起こった波に巻き込まれた。