ねこじま麺紀行・すすきの｜リアクション

ねこじま麺紀行・すすきの

【６】

「お、薄野仕事がんばってんな！」
　続いて、店にやってきたのは水守流。
　ぼさぼさの髪とラフな格好。休日らしい格好といえば、そんな格好だが、彼は大体いつもこんな格好である。
「水守君じゃないですかー。いらっしゃいませー」
「クラスメイトのよしみってやつで食べに来てみたぜー」
「それは嬉しいです。水守君、意外とクラスメイト思いなんですねー」
「意外とは余計だっつーの」
　五月に案内され席へ。パラパラとお品書きをめくる。
「注文はなんにすっかな……あ、薄野のおすすめとかあるか？」
「おすすめですか？」
「せっかくだし看板娘のおすすめメニューを選ばせてもらおうと思ってさ。あ、ただあんまり高いメニューはなしで頼むな！」
「そういうことなら、天ぷら蕎麦がおすすめですよー。蕎麦も美味しいですけど、うちは天ぷらもとっても美味しいんです」
「天ぷらかー。そういや、最近食べてないしちょうどいいな！　じゃあそいつを頼む！」
「かしこまりましたー」
　そう言って、厨房へ向かう五月を流は見送る。
（しっかしいい働きっぷりだねぇ、俺と同じ高校生とは思えん）
　厨房から出て来た五月は蕎麦を持って、店内をあちこち動き回っている。
　気持ちのいいクラスメイトの仕事に思わず目を奪われていると……ふと、流は五月が何か口ずさんでいることに気づいた。
「あなたのそばにー、すすきのーすすきのー♪」
「店のテーマソングか？　なんか頭に残るメロディだな……あなたのそばにー、すすきのーすすきのー……か」
　何気なく口ずさんでしまい、ハッとする。
「つい俺も口ずさんでしまったぜ」
　そうこうしていると、お待ちかねの蕎麦がやってきた。
「おお、見るからに美味そうだぜ！」
　まずは蕎麦から一口。ずるずるとすすった蕎麦はコシがあって、香りも立っている。
「くぅ～、うまい！　いやもうこれぞ蕎麦だよ！　待ってましたって感じ！」
　それから今度は天ぷらに箸を伸ばす。
「おおっ、このエビ天……ずいぶん太いな〜！　やっぱ天ぷらのエビはこうでなくっちゃ！　どれどれ……んんっ！」
　サックリした歯ごたえが過ぎ去るやいなや、ジューシーなエビが口の中で弾ける。
「これも美味い！　さっすが、おすすめだけあるぜ！」
　と蕎麦を堪能する流だったが、気がつくと店の中がお客で溢れていることに気づいた。
　突然のたくさんのお客さんに五月が慌ただしく案内をしている。
（……あ、メシテロジツ発動しちまったかも）
　その『メシテロジツ』というのは流のろっこん。
　空腹時に食べ物を食べて美味いと思うと、周辺の人が食べた物と同じ物を猛烈に食べたくなるという能力である。
　どうやら表を歩いていた人がこの力に引き寄せられてしまったらしい。
（こりゃ客をさばくのが大変そうだ。ま、千客万来ってことで勘弁してもらうとするか）
　そんなことを思いながら、蕎麦に向き合うと隣にいた女の子が声を上げた。
「す、すみません……！　天ぷら蕎麦追加で……！」
　隣の女の子……壱都は複雑そうな面持ちだった。
（庚兄さんに言われたから頼むわけじゃありません……。なのに、何故か無性に天ぷら蕎麦が食べたい……）
　ううう、と唸っていると、流と目があった。流はニカッと笑う。
「天ぷら蕎麦、すっごい美味いぜ！」
「は、はあ……」