ねこじま麺紀行・すすきの｜リアクション

ねこじま麺紀行・すすきの

【７】

　軽音部の練習が終わった夕暮れ時。
　楡宮遠海はむちゃくちゃおなかが空いていた。
　とても鎌倉の自宅まで持ちそうにない。今日は外食になりそう……幸い、母親も仕事が長引いて今日は遅くなると言っていた。
　となると、問題はどこで今日の夕食をとるか、である。
（蕎麦……今日はお蕎麦の気分……そうだ、『すすきの』に行こう）
　超絶方向音痴の遠海だが、今日は運良く目的地までたどり着くことができた。
　暖簾をくぐると、店の中はそこそこ席が埋まっていた。
（そっか。食事時だもんね……）
　空いていたカウンター席に通され、まずは軽くかけ蕎麦を注文する。
　かけ蕎麦……シンプルだが、シンプルだからこそ蕎麦本来の味を堪能できる。
（まずは七味を軽く振って、よーく冷まさないと……）
　ふーふーと息を吹きかけ、十分に冷ます。
　そう、彼女は猫舌なのだ。ならば、冷たい蕎麦を頼めば……という意見もあるが、それはちょっと違う。
　あくまでも温かい汁に入った蕎麦を食べたいのだ。
（ん、美味しい……。蕎麦のことはあまり詳しくないけど、ここの蕎麦好きだな……）
　ぺろりとかけ蕎麦を平らげると、お品書きに手を伸ばす。
　ざっと目を通し、今夜のプランを組み立てる。
（天ぷら蕎麦、かき揚げ蕎麦、ざる蕎麦、天ざる蕎麦、寝子島そば定食、サンマそば定食、蕎麦サラダ定食、三色そば定食……うん、この順番でいこう）
　すみません、とぴっと手をあげる遠海。
　お気付きの方もいるだろう。そう、彼女はいわゆる痩せの大食いなのである。
　普段からかなりの量を食べるが、今日は部活帰り、空腹の具合も極限に達している。
　長い戦いになりそうだ。

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