ねこじま麺紀行・すすきの｜リアクション

ねこじま麺紀行・すすきの

【１】

　旧市街、参道商店街に蕎麦屋『すすきの』はある。
　開店前のすすきのの裏に一台の原付が止まった。如月庚はメットを外し、気だるげに前髪をかきあげる。
　庚はこのすすきののアルバイトだ。もともとは常連のひとりだったのだが、バイクの免許を取ったのを機にアルバイトを始めたのだ。
　仕事の内容は出前。予約が立て込んでいる時に店主にお願いされるのだが……つまり、彼がここにいるということは立て込んでいる、ということである。
「うーす」
　勝手口から入って、さっそく予約を確認する。
「今日の予約……２丁目の寄合所……か。先週出先で受けたヤツ。おやっさん、他に追加入ってんすか？」
「ああ、他に３件入ってるよ。３丁目の鈴木さん、それから４丁目の佐藤さんと……タバコ屋の角の田中さんだ。今日は孫が来るらしくてな、うまい蕎麦を頼むと言われたよ」
「そいつはあのじいさんも大喜びっすね。ま、３件か……うす、了解」
　自前のエプロンとバンダナを身につけて厨房へ。
　店主の手伝いをしていたすすきの看板娘、薄野五月と目があう。
「らぎらぎ君、今日もよろしくお願いしますー」
「ああ、今日も忙しそうだな」
「はい。だから、らぎらぎ君が手伝ってくれて大助かりですよー」
「出前の手伝いぐらいで大げさだろ」
「いえいえ、ほんとに助かってます。それにらぎらぎ君の原付のおかげで出前の範囲が広がりましたからねー。前は自転車で行ける距離まででしたからー」
「あー、そういや、そうだったな」
「おじいちゃんの打つお蕎麦、美味しいですから、いろんな人に食べていただけるのはすごく嬉しいなって」
「そいつは同感だ。おやっさんの蕎麦は最高だからな」
　無邪気に微笑む五月に、庚も小さく笑う。
「おーい、ちょっと仕事を頼んでもいいかい？」
　店主の声に二人は振り返る。
「うーす」
「はーい」
　蕎麦屋『すすきの』の入り口に暖簾がかかる。
　はてさて、今日はどんなお客さんがやってくるのやら。

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