ねこじま麺紀行・すすきの｜リアクション

ねこじま麺紀行・すすきの

【２】

「おっそっば♪　おっそっば♪　えへへ、楽しみだねー」
「ふふ、そんなに喜んでもらえるなら誘ってよかったよ」
　蕎麦屋が賑わうお昼時、すすきののカウンターに佐藤英二と野々ののこの姿があった。
　ののこは英二のちょっと気になる女の子。
　今日はあまり持ち合わせていない勇気をぎゅっと振り絞ってお昼に誘ったというわけである。
　ああ、青春。美しきかな青春の１ページ。
「ねーねー、英二くんは何にする？　やっぱり男の子だから、天丼ざる蕎麦大盛りセット？」
「えっ？　えーと、もう少しさっぱりしたもののほうがいいな」
「あはは！　そっか、夏だしね！」
「うん。温かい天ぷら蕎麦もいいけど……天ざるにするよ。野々さんは？」
「私は〜……うーん、こんなに種類があると迷っちゃうよ〜！」
「ふふ、季節限定の料理もあるからね。ほら、すだち蕎麦だって」
「わ！　たくさんすだちが浮かんでる！」
　むむむとお品書きを睨みつけるののこを微笑ましく英二は見守る。
　眉間にしわを寄せた表情もかわいい。気になる女の子の表情ならなんでもかわいいのが世の真理である。
「よし！　これにするよ！」
「えっ！？」
　不意にこっちを向いたののこと目が合い、英二の胸がドキリと高鳴る。
「え、えっと、どれ？」
「これ！　天丼ざる蕎麦大盛りセット！」
「だ、大丈夫？　けっこう量がありそうだけど……？」
「大丈夫！　今、おなかペコペコだもん！」
「それならいいけど……」
　大丈夫じゃなさそうな気がしつつも注文をする英二。
　しばらく雑談をしながら幸せな時間を過ごしているとお待ちかねのお蕎麦がやってきた。
　カラッと揚がった天ぷらは見目麗しく、蕎麦は瑞々しくきらめいている。
　初めてこの蕎麦を見た人はこう呟くだろう。これ、絶対美味しいやつ……と。
「うん、美味しい。やっぱり天ざるにしてよかった」
「天丼も美味しいよ！　お蕎麦屋さんの天ぷらってなんでこんなに美味しいんだろ〜！」
「ふふ、猫島ラーメンも美味しかったけど蕎麦もいいね。実はどのお店にするか悩んだんだ」
「え？　もぐもぐ……そうなの？」
「この間、ラーメンに誘った時喜んでたから、今日もラーメンのほうがいいかなって」
「うーん、ラーメンも好きだけど、お蕎麦も好きだよー」
「そういえば野々さんは好きな食べ物とかある？　僕は納豆以外は何でも……もちろん麺類も好きだけど甘いものも好きかな。今の季節なら氷金時とかいいね」
「わあ、美味しそう！　私はねー、うーん、美味しいものならなんでも好き！」
「あはは、野々さんならそういうかなって思った。あ、じゃああの……」
「なになに？」
「一度、スイーツバイキングに行ってみたいなって思ってるんだけど、よかったら一緒に行かない？」
「バイキング！　わあ、それいろんなケーキがたくさん食べられるやつだよね！　行ってみたい！」
「そ、そう！　じゃあ、今度誘うよ！」
「楽しみに……もぐもぐ……してるね……もぐもぐ……」
「？　野々さん？」
　急速に蕎麦を運ぶののこの手が遅くなっていく。
「どうしよう、おなかいっぱいになってきた……」
「う、うん。そんな気はしてたよ……」
　初めは勢いよく食べていたものの、けっこうな量が残ってしまっている。
「の、残したらお店の人に悪いよね……」
「野々さん……だ、大丈夫！　残った分は僕が食べるから！」
　ここは男気というやつを見せなければならない。
　とはいえ、この量果たして食べきれるだろうか……？
（が、がんばろう……！）
　心の奥でぐっと拳を握りしめる英二であった。

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