チャ・レ・ン・ジ、しましょ♪｜リアクション

チャ・レ・ン・ジ、しましょ♪

　星ヶ丘に位置する自宅の、自分の部屋で。
　佐藤瀬莉は……ぺしゃりと、へばっていた。
　窓越しに、蝉の声が聞こえる。うるさいくらいの夏の音だ。
（夏真っ盛り……っていうか、猛暑真っ盛り、だよね。うう、なんか、やる気が出ない……）
　部屋の中はクーラーがよく効いていて、頬を汗が伝うようなことはない。
　けれど、外の暑さを思えば、しゅるしゅると、やる気の風船は萎んでいってしまうのだ。
　好きな時計いじりにさえ、励む気が起きない。
　蝉が鳴いている、クーラーが唸っている。
　その冷気に、瀬莉はふるりと身震いをした。
（暑いのは嫌だけど、ちょっと、窓を開けてみよう）
　ガラガラっと窓を開けて、ひょこり、ベランダに出る。
　そこへ、ぴるるっと風が吹き付けてきた。
　クーラーの風とは違う、自然の……ん？　自然の風ってこんな感じだったっけ？
　ともあれ、その疑問は、次の瞬間には風と共に過ぎ去った。
（あれ……なんだろう）
　胸に、手を当てる。
　手を当てた胸の奥の奥の方で、何か、微かな炎のようなものが、燻り始めていた。
　それはすぐに、確かな熱を持って、瀬莉の気持ちを高めていく――。
「なんだか……なんだか、新しいこと、やってみたい！」
　何ならば、やってみたい！　を通り越して、やってみなきゃ！　という気さえする。
　猛烈な勢いを以って自身の胸の内に渦巻くその感情に背を押されるまま、
「こういう時は、善は急げだよね！」
　なんて、瀬莉はそりゃーっとばかりに家を出た。
（だって、家にいたら、新しいことなんてできないもん！）
　てくてくてくてくと、瀟洒な星ヶ丘の街を行く瀬莉。
　暫くの間、てくてくを続けて、辿り着いたのは、星ヶ丘とシーサイドタウンの境界付近だ。
　瀬莉はそこで、ある一軒の店に目を留めた。
　瀬莉の瞳が、きらっと煌めく。
「何だかここに、あたしがチャレンジすべきものがあるような気がする！」
　ならばそこに、物怖じする理由はない！
　瀬莉は、店内へと、一切の躊躇もなく突入した。そして。
「わあ……！」
　その声が、店内の様子に、鮮やかに華やぐ。
　そこは、小洒落たＴシャツ工房だった。
「いらっしゃいませ」
　と笑った店主の話によると、自分で好きなデザインや柄などを選んで、
「自分の好きなように、Ｔシャツを作れるの！？」
　という具合だったものだから、益々以って弾む瀬莉の心。
　かくして瀬莉は、オリジナルＴシャツ作りに意気揚々と挑戦した。
　感性の赴くまま、好き勝手にデザインしていく。
「稲妻！　何だか、カッコいい！　でも、ハートにも合う気がするな……」
　黒地のＴシャツを彩るのは、蛍光イエローの稲妻に派手なピンクのハート達。
　瀬莉のイメージを離れた、ロックで少し尖ったデザインだが、
「うん、いい感じ！」
　なんて、本人は中々に気に入ったようで、愛らしいかんばせに笑みの花を咲かせた。