チャ・レ・ン・ジ、しましょ♪｜リアクション

チャ・レ・ン・ジ、しましょ♪

　透明が家族と暮らす家は、築３５年。
　家は長い間、家族の思い出と――大量の『物』を蓄え続けてきた。
（ほんと、物だらけだよな……）
　ふと、明は改めて、しみじみとそう思う。
　母親が溜め続けている、未使用の割り箸。
　姉は、雑誌や服を溜め込むのが得意だし、祖母は、父親の昔のおもちゃを手放せない。
　いつしか、溢れる物達は、明の自室すらも浸食して――。
（でも皆、文句を言っても、『いつか使う』の一点張りだもんな……）
　はあ、と大きなため息を零したその瞬間、開け放った窓から、
　――ぴるるっ。
　と、不思議な風が吹き込んできた。
　途端、明の胸に、決意の炎が煌々と燃え滾る！
「くの字で寝る生活はもう嫌だ！　捨てる！　思い切って片付けてやる！」
　地味……もとい控えめな彼らしく、チャレンジの内容もちょっと……うん、地味だった。
　叫び声を聞き付けた姉が、バタバタと音を立てて走ってきて、明の部屋の扉を開ける。
「あーもう、急にどうしたのよ……」
　なんて文句を言いながら、危険を察知した姉は、山になった服を避難させるのだった。
「先ずは、押入れからだ」
　大きなゴミ袋を準備して、その中に、押入れの中で眠っていた物達を次々に放り込む。
「キングが足りないトランプ……使わないだろ」
「このオルゴール、箱がないじゃないか」
「うわ、この風呂敷、汚いな……」
「毛布……ゴワゴワだ。これは、被らない」
「ぺたんこの布団……今使ってるのがあれば、これ、要らないよな？」
　なんて具合で、次々に物をゴミ袋にインしていく明。
　これが、疲れるけれど結構楽しい。片付けハイというやつだ。
　けれど、ぽいぽい、どかどか、押入れの中をすっきりさせていく途中で、
「……ん？」
　明は、何だか見覚えのあるミカン箱に行き当たった。
　両手で抱えて、押入れから引っ張り出す。蓋を開けてみれば、中身は、
「……箱タバコ？　いや、これは……」
　それは、クラリネットにセットして使う、木片リードだった。
「１０枚入り一箱２０００円が１００箱か……」
　リードは一箱中１枚、自分の吹き方に合えば良い方だ。
（残りは、どんなに頑張ってもゴミ同然）
　ゴミ。だとしたら、それは今、真っ先に処分されるべき物のはずだ。
（でも……）
　手が、止まる。
　どうしても、捨てられなかった。
（……俺に、家族を非難する資格はなかったな）
　ならば、一体どうするか。明は、考えて考えて、
「そうだ！　捨てなきゃいい」
　という結論に至った。
　不思議な風の影響は、まだ消えてはいない。
　明は、リードと、ゴミ袋から取り出した割り箸を手に、新たな挑戦に着手した。

　そして、その日の深夜。
「完成だ！」
　明の前には、見事な風車小屋の模型が鎮座していた。
　リードと割り箸をリサイクルしたアート作品である。
　中には祖母のオルゴールも組み込まれていて、水車を回すと、懐かしいメロディが流れ出す仕組みだ。
　それに合わせて、小屋の中の杵が臼を打つ。芸が細かい。
「ちょっと、何、ゴミ増やしてんのよ」
「何だよ。捨てる代わりに作品を作って飾れば、一石二鳥だろ？　……ちょっと、場所を取るけど」
　明の言葉に、姉は呆れたような息を吐いたが、その眼差しは風車小屋に釘付けだ。
　他の家族も、「ゴミを増やすな！」とは言いながらも、皆、明の作品に興味津々だったとか。

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