チャ・レ・ン・ジ、しましょ♪｜リアクション

チャ・レ・ン・ジ、しましょ♪

　今日は、楽しみにしていた新刊の発売日。
　足取り軽く、馴染みの書店へと向かっている途中で、
　――ぴるるっ。
　と、綾辻綾花は、例の不思議な風に吹かれたのだった。
　途端――胸に湧く熱意に、綾花はそわそわ。
（何だか突然、前から気になってたお店に行きたくなりました……！）
　挑戦するなら今！　という気持ちに、綾花の足は付き動かされる。
　向かったのは、中華料理店だ。
　店内へと勇ましく足を踏み入れ……たところで、綾花は、「あれ？」と気付いた。
「珪先生？」
　見れば、端の方の席に、早川珪先生の姿があったのだ。
　名を呼ばれて、早川先生が、入口の方へと顔を向ける。
　双眸に綾花の姿を見留めれば、かんばせに、優しい笑みが乗った。
　ぺこりとして、早川先生の席へ歩み寄る綾花。
「こんにちは、早川先生。お昼ですか？」
「うん、何だかラーメンが食べたいなあって。綾辻さんもお昼かな？」
「私は……猫チャーハン大盛りにチャレンジします！」
　えっ、という声が、早川先生の唇から零れた。
　１５分以内に食べ切れたら無料、それが叶わなければ１５００円。
　それが、猫チャーハン大盛りに挑戦する者に課される掟だ。
「食べ切れた人の写真を、猫の形の写真立てに入れて壁に飾ってくれるんだったっけ？」
「はい、そうなんです。ずっといいなって思ってたんですけど、大盛りはなかなか……」
　けれど、今日の綾花は、燃えに燃えているのだ。
　早川先生が、にこりと笑った。
「じゃあ、応援させてもらうよ。席も……結構混んでるし、良かったら相席どうぞ」
　お言葉に甘えてしまって、綾花、早速、猫チャーハン大盛りを注文！
　提供された巨大チャーハンを前にしても、綾花は少しも怯まない。
「何だか、食べきれる気がします！　頑張ります！」
　かくして、いざ、実食！
　最初は順調に食べ進めていたが……流石に、徐々にペースダウン。
「綾辻さん、頑張って。……でも、大丈夫……？」
「大丈夫です！　なぜか食べ切れそうな気がするんです……！」
　１０分で、半分以上を食べ切る綾花。
　残り時間は、あと５分――！
（うう、いつもそんなに食べないので、もう満腹に近いです……）
　あと少し、というところで、制限時間を過ぎてしまった。
「残念だったね」
「はい。でも、意外と食べれてびっくりです」
　眉を下げる早川先生へと、綾花は、清々しいような笑顔を向ける。
　そして、会計を済ませたあと。
「あ、そうだ、お客さん」
　と、綾花は店主に呼び止められた。
「もしよかったら、これ」
　そう言って差し出されたのは、にゃんこ型の写真入れ。
　久しぶりの挑戦だったものだから嬉しくてね、と、店主は破顔した。
　受け取った綾花の表情が、ぱあと、花咲くように綻ぶ。
「わああ、可愛い！　素敵な写真立て、ありがとうございます！」
　笑顔のままお礼を伝えて、綾花は、早川先生と一緒に店を出た。
「珪先生、応援、ありがとうございました！」
「いえいえ。何だか、僕まで手に汗握ったよ。写真立て、良かったね」
「はいっ！」
　優しい微笑に、きらきらの笑みを返して。
　綾花は、キュートな写真立てを、ぎゅっと胸に抱き締めた。