ドリーム・ゲーム｜リアクション

ドリーム・ゲーム

「ふぅん。何か不思議な感じ」

　仙藤蒼はシルバーメタリックのオートマティックハンドガンを手で弄びながら呟く。
　弾倉が既に装填されているそれは蒼の手にすっしりとした重量感を伝えてくる。それは正しくリアルな重さだと言えるだろう。だと言うのに、先程試し撃ちしてみたら片手にも関わらず反動を簡単に抑え込む事が出来た。

　反動がない、というわけではない。まるで本物の銃を撃ったかのような反動はあったのだ。だけど、本来の蒼では吹き飛ばされそうなそれを今の彼女は簡単に制御する事が出来ていた。
　どうやら先程の説明の通りであるらしいと蒼は納得した。

「服装とかも変える事が出来るみたいだけど、このままで良いかな」

　蒼が選択したゲームはゾンビマーチ。出てくるゾンビを銃で撃つというガンアクションゲームだ。
　とは言えども、普段ゲームセンターでやっているものと違い今回のこれは自分自身も動く必要があると思われるので、蒼は慣れている格好のままで行う事を決めていた。
　Tシャツの上にパーカー、それにホットパンツというそれは普段から着ているだけあって蒼にはとても良く似合っており、実際動き易いだろうと思われた。

「よーし、行くよー！」

　セーフティを解除した蒼がそう言うと、ゲームがスタートする。
　周囲の景色が変わり、辺りは街中らしき風景となる。但し、壁や建物は半壊していたりするし所々で火が上がっていたりもする。

　蒼はそれを確認すると油断なく全身を針のように研ぎ澄ませ、抜かりなく状況を確認しつつ前進。
　ゲームセンターでのゲームならば画面に映っていないところから攻撃される事はない。だが、仮想現実ともいえるこの空間では現実と同様に死角となっているところから、後ろから敵が出てくる可能性はあるのだ。

「んっ」

　呻き声を上げながらゾンビが前方からゆっくりと歩いてくる。その見た目は思った程グロくはないようだと蒼は感じていた。匂いも感じないし、そこはちゃんと考えているらしい。
　そんな事を考えながら、蒼は慌てず騒がず、急所を狙って発砲。どうやらこのゾンビは大して耐久力はないらしく、見事に急所に当たったその一発で倒れていた。

「うん、問題なし。ちゃんと狙いをつけれるね」

　そう。蒼が呟いた通り狙いはゲームセンターでやっているのと同じように正確だ。
　ただ、気を付けなければいけない事がある。普段のゲームでは撃つだけで良いが、このゲームにおいては撃ちながらも周囲の把握をし、ゾンビに囲まれないようにしないといけないのだ。

　物陰を巧みに使ってゾンビから身を守る、あるいはゾンビに物陰に隠れたと思わせて、その場所へと誘導してから、そこへ集中したところを銃を連射して仕留めたりする。そういった事を行う必要がある。
　そして、もう1つ。リロードの問題だ。このゲームでは弾倉を自分で交換する必要がある。幸いな事に弾倉は勝手に補充されるので、そこは良いのだが弾倉を外して入れるとう作業の間、どうしても隙が出来るだろう。そこもどうにかしなければならない。

「やぁっ！」

　道端にあった廃車の上に飛び乗ってからの回し蹴り。ホットパンツから覗く長い脚がゾンビを捉える。別にこれで倒せずとも問題はない。体勢さえ崩れれば良いのだと蒼は考えていた。
　乾いた音が連続で響き、その度にゾンビ達が道へと倒れ伏す。

「確かボスがいるんだよね。なら、ある程度は温存しとかないとか」

　事前の情報でボスに当たる存在がいるのは知っている。そして、その為に体力等を温存するだけの余裕すら蒼には生まれていた。
　事実、ここまでゾンビの指が蒼の服にかかった事さえないのだから、当然かもしれない。

『ゴァアアアアアッ！』
「おっとっ！？」

　突然の咆哮に少し驚く蒼。咆哮が聞こえた方を振り向けばそこには今まで出てきたゾンビよりも大きく筋肉質なゾンビがいた。

「なるほど。あれがボスね」

　向こうも蒼を認識したらしく、睨んだままで大きな足音を響かせて前に進んでくる。
　動きそのものは今までのゾンビと変わらないが、力が強く一撃がかなり重いとの事なのでまずは慎重に立ち回る蒼。

　相手が近づいてきて攻撃をしてきたらそれを躱して攻撃。そうして相手のパターンを把握していく。
　パターンを把握したら、蒼の動きは一気に積極的になる。相手の動きを掻い潜るように動き、更にはアクション映画のワイヤーアクションのように宙を飛んでゾンビに上空から銃撃を行ったりすらしていた。

　既にパターンを把握されているボスゾンビに成す術はなく、そのまま倒れ伏すのみであった。

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ドリーム・ゲーム

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